研究概要 |
本年度は,キバチ類の一種であるニホンキバチ(Urocerus japonicus)の共生菌利用様式について,新たな知見が得られた。共生菌を持つキバチ類の一種であるニホンキバチの幼虫は,生立木では生育できず,倒木においても,伐倒されてから長期間経過すると他の腐朽菌が定着してしまうため,共生菌が定着できず,幼虫も成育できないと考えられてきた。しかし,本年度の研究によって,前年に強制産卵-全木処理,(共生菌)接種-全木処理あるいは接種-玉切り処理をされたすべての材からニホンキバチの産卵時期にAmylostereum属菌が分離された。このことは,生立木に接種された菌が伐倒後約7ヶ月経過しても,材内に定着していたことを示している。さらに,各処理木(強制産卵-全木,接種-全木,接種-玉切り,対照)に対する強制産卵実験の結果,産卵翌年に,接種-全木処理木2本のうち1本からオス成虫2頭が,接種-玉切り処理木2本のうち2本からオス成虫15頭が脱出した。これらの個体は伐倒前に接種された共生菌を利用して,繁殖に成功したものと考えられる。また,生存率の相対的指標となる「脱出成虫数/産卵孔数」は,接種-玉切り処理木の方が接種-全木処理木よりも高かった。一方,強制産卵-全木処理木および対照木から,成虫は発生しなかった。以上のことから,強制産卵木では繁殖成功に至らなかったものの,伐倒前に産卵された木では伐倒後も共生菌が樹幹内に定着しており,次世代のニホンキバチにとっても繁殖源となり得ることが示唆された。また,接種処理木で繁殖に成功したことから,ニホンキバチは母親由来でない共生菌を利用して繁殖できることが明らかになった(福田・佐野,投稿準備中)。 その他,キバチ類の資源利用様式についての成果の一部を総説および図書として公表し(二井・肘井編,2000;福田,2002;全国森林病虫獣害防除協会編,2002),キバチ類による森林被害の防除対策についての総説も公表した(福田・前藤,2001)。
|