研究概要 |
本研究の目的は,19世紀の中葉にオーストリアで開発された曲木椅子製作技術が,どのような過程を通して我が国に伝えられ,さらに発達したのかを明らかにすることにある。研究の方法は文献史料からの資料収集を基盤とし,その検証をフィールド調査によって行うというものである。 平成12年度は文献史料に記載のあった広島県,鳥取県,兵庫県,大阪府,奈良県,秋田県,宮城県に関する曲木家具業の調査を行った。さらに平成13年度は北海道,長野県,東京都,静岡県,愛知県,大阪府に関する曲木家具業の調査を行った。その結果次のような内容が明らかになった。 日本の曲木産業は橇類の製作から始まっている。その時期は明治10年代の北海道であり,ロシアの橇職人を北海道開拓使が雇って,曲木加工の技術が定着した。 東京都では1897(明治30)年に淀橋曲木工場が創業しているが,ここでは曲木椅子は製作されていない。1905(明治38)年に東京曲木工場が設立されている。ただし曲木椅子製造が軌道に乗るようになるのは1907(明治40)年あたりである。この1907(明治40)年には大阪府においても泉曲木工場が設立され,曲木椅子を主たる製品としている。すなわち,我が国で曲木椅子の量産化が開始されたのは1907(明治40)年ということになる。 1907(明治40)年には農商務省山林局の林業試験場でも曲木椅子の実験を開始している。林業試験場の曲木装置は1909(明治42)年に宮城県の国営鍛冶谷沢製材所に移され,その後1911(明治44)年に設立した秋田木工株式会社に貸与された。 大正期には鳥取県,静岡県,北海道,長野県,岐阜県,広島県,奈良県,兵庫県,大阪府で15社の曲木業が創業している。明治期および大正期に創業した曲木企業で,現在も曲木椅子を製造しているのは秋田木工式会社と飛騨産業株式会社の2社だけである。
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