研究概要 |
近年、海産動植物にD-アミノ酸が広く分布していることが明らかになってきたが、その由来や生理機能はまだ明らかではない。動物における由来は(1)自身による生合成、(2)腸内あるいは付着細菌由来、(3)食餌由来等が考えられ、軟体類や甲殻類では合成酵素であるラセマーゼの存在が報告されている。 本研究の目的は基本的に独立栄養生物である植物プランクトンにおけるD-アミノ酸の存在、生成機構を調査し、海産植物におけるD-アミノ酸の生理機能を明らかにしようとするものである。 本研究において、海産珪藻4種(Aserionella, sp.,Thalasiosira sp.,Pseudo-nitzschia sp, Nitzshia sp.)および淡水産緑藻4種(Botrydiopsis alpina, Chlorella pyrenoidos, Chlorella vulugaris, Scenedesumus obliquus)ついてD-アミノ酸の分布を調査し、すべての種に遊離D-アスパラギン酸が、また珪藻4種に遊離D-アラニンが存在することを明らかにした。これらのD-アミノ酸含量は、増殖段階、培養条件等によって変化し、何らかの生理機能を持つことか示唆された。また、結合型D-アミノ酸についても検討し、珪藻にD-Asp, D-Glu, D-Alaの存在を認めた。淡水産微細藻には遊離型と同様、結合型のD-Alaも認められず、その違いに興味が持たれる。 これらのD-アミノ酸が藻体内で生合成されている可能性を検討するため、珪藻(Aserionella, sp.,Thalasiosira sp.)についてD-アスパラギン酸ラセマーゼ、およびD-アラニンラセマーゼ活性の検索を行った。その結果、両珪藻にD-アラニンラセマーゼ活性を認めた。Thalasiosira spのD-Alaラセマーゼは至適pH約9.5、至適温度約30℃、Km値19.7mM(基質L-Ala)、各種化学試薬に対する影響など、細菌由来ラセマーゼの性状と類似していたが、PLPの要求性はみられなかった。
|