研究概要 |
1.研究の目的:本研究では,地域社会における農業用水の存在の必然性に関する社会一般の認識を得るために,これらの農業用水が備えている多面的な機能と役割を評価することを研究の目的とする. 2.研究成果の概要 (1)水利システムの操作・管理:水利システムの操作と応答の間には,時間遅れが存在する.また,用水の供給と需要の間には,大きなギャップが存在する.これらのギャップを解消し,円滑な水利システムの操作・管理を実現するための調整施設,とくに,調整池とファームポンドの相互操作について論及した. (2)水利実態の把握:現況の水利システムを対象に,用水の取水実態とこれに関与する要因の分析を行なった.手法として数量化分析I類を適用した.これにより,農業用水の多面的な機能の発現に際して,灌漑用水の内数となる成分と,外数として付加することを要する成分が存在することが明らかとなった. (3)水利権と地域用水:水利システムを運用する際の前提となる「水利権の歴史過程と地域用水との関連」に関して,法社会学の立場から研究を行ない,土地改良区による非灌漑用水(地域用水)管理の妥当性を論じた.さらに,農業水利権の私権的側面と地域用水との関連について,判例を手がかりとして,水利権私権論の立場から総有水利権による地域用水管理の妥当性を論じた. (4)農民参加による水利施設管理:わが国をはじめ,アジア・モンスーン地域における農民による伝統的な水田灌漑施設管理の特徴を論じた.また,これに基づき,大規模ブロジェクトととして建設された水利システムへの農民参加の方策を提言した. (5)転作畑地の用水量:近年,転作畑が占める割合が増加し,水田地帯でも畑地圃場の用水量の算定が重要な課題になった.これに対し,日向面と日陰面ならびに湿潤面と乾燥面が交互に存在する圃場を対象に,移流条件下で水蒸気および熱輸送のシミュレーションを行ない,土壌面蒸発量推定モデルを提案した.
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