研究概要 |
本研究では,家畜の卵巣から採取した卵母細胞を用いて,成熟能力を持たない発育途上の卵母細胞が,発育過程でどのようにMAPキナーゼを活性化する機構を確立していくのかをCdc2キナーゼと合わせて検討した。また,卵母細胞に成熟能力を獲得させる培養法についても検討した。 1.ブタ卵巣から種々の発育段階にある卵母細胞を採取して成熟培養し,各卵母細胞のCdc2キナーゼおよびMAPキナーゼの変化を調べた。発育を完了した卵母細胞では,両キナーゼが活性化されたが,減数分裂を再開しない発育途上の卵母細胞では両キナーゼとも活性化されず,また,第一減数分裂中期で停止する卵母細胞では,Cdc2キナーゼは活性化されたが,MAPキナーゼの活性化は不完全であった。成熟能力を持たない卵母、細胞では,Cdc2キナーゼのcyclin B1サブユニットは合成されるが,Cdc2サブユニットの抑制的リン酸化により,活性化が起こらないことが示唆された。 2.発育を完了したブタ卵母細胞では,活性型のMAPキナーゼは第一減数分裂の凝縮した染色体の周辺に認められ,分裂後期から終期にかけては紡錘体の中央部へと移動した。MAPキナーゼを阻害すると染色体の分離が阻害され,MAPキナーゼは,第一減数分裂から第二減数分裂への移行に関わると考えられた。 3.減数分裂再開能力を持たない発育途上のブタ卵母細胞をコラーゲンゲルに包埋し,FSHとヒポキサンチンを添加した培養液中で7日間培養し,発育させたのち成熟培養した。ヒポキサンチン添加培養液中で発育した一部の卵母細胞は第二減数分裂中期へと成熟した。同様なヒポキサンチンの作用は,発育途上のウシ卵母細胞を用いた実験においても認められた。 4.第一減数分裂中期で停止する発育途上のブタ卵母細胞をタンパク質フォスファターゼ1/2Aの阻害剤で処理すると,卵母細胞のMAPキナーゼが活性され,一部の卵母細胞は第二減数分裂中期へと成熟した。
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