研究概要 |
ヒト食道上皮幹細胞はいまだ同定されていないが,幹細胞が基底層に存在すると仮定し、基底細胞の細分類化により幹細胞を決定するという方策の基、まず、食道上皮基底細胞を選択的に認識するモノクローナル抗体の作製を試みた。カルシウム制限下で培養した初代培養ヒト食道幼若上皮細胞を、ddYマウス(♂)に免疫し、その脾細胞をSP2 myeloma細胞と細胞融合した。hybridoma上清を用いた食道上皮凍結切片の免疫染色によりクローンの選択を行った。hybridoma約800クローンから、食道上皮基底細胞を選択的に染色するクローンNJ-E-H10(H10)を選択した。 H10抗体のisotypeはIgMで、食道上皮基底細胞のうち、乳頭部を除く乳頭部間に存在する基底細胞の細胞質を強く染色した。また、培養ヒト食道上皮細胞では、特にコロニー周辺部、すなわち、伸展先端部分の細胞と反応性が強い。一方、H10抗体は、ヒト皮膚の表皮基底細胞、汗腺導管および毛包の基底部の細胞も特異的に染色した。蛍光染色と免疫電顕の所見では、抗原のシグナルを細胞内の中間系フィラメント周囲に認め、H10抗体はヒト基底細胞特異的な中間系フィラメント関連蛋白を認識している可能性が考えられた。H10抗体はその反応性から、既知の基底細胞のマーカー(CD29,CK14,p75NGFR)とは区別され、陽性細胞の局在が、想定される食道上皮幹細胞の存在部位(上皮乳頭間領域基底部)に一致することからその有用性が期待できた。 H10陽性細胞の特性を理解するため、上皮再構成能について解析した。in vitro三次元再構成培養モデルでは、Ki67陽性細胞が基底層に存在する。これは、実際の上皮構成に合致しない事に気づき、増殖細胞が第二層以上に存在するような再構成系の構築を模索した。間質細胞の選択、血管誘導の有無などが問題であると想定し、ニワトリ胚子の様々な部位にH10陽性細胞をマイクロインジェクションすることによって再構成系の構築を試みた。その結果、脳実質の外側にH10陽性細胞を移植する事により、in situに合致する上皮が形成される事が明らかとなった。
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