研究概要 |
直径50〜100μmのモルモット腸管膜細動脈を用いた研究を行った.この標本の中膜は単層の平滑筋細胞からなっており,内皮細胞間には多くのギャップ結合が見られた(透過型電顕による超微形態観察).内皮細胞膜にはconnexin 40と43が,平滑筋細胞膜には同43が発現していた(免疫組織化学).内皮細胞からneurobiotinを注入すると回りの多数の内皮細胞が濃染したが,平滑筋細胞から注入した場合は回りの少数の平滑筋細胞が薄く染まるのみであった.長時間の注入によりneurobiotinの平滑筋-内皮細胞間の両方向の移動が見られた.さらにパッチクランプ法による膜電位の観察とビデオエッジ・ディテクタによる血管径の測定により,次のような結果を得た.内皮細胞同士は電気的に強固につながっており,細胞間の抵抗は本研究方法では測定できないほど低かった.平滑筋同士や平滑筋-内皮細胞間も電気的に結合しており,隣り合った平滑筋細胞同士間の抵抗は少なくとも90MΩ,1個の平滑筋細胞と内皮細胞層間の抵抗は0.9GΩであると計算された.また,この細動脈はある程度の緊張を常に保っており,また細胞膜電位の変化を伴わない小さな収縮が繰り返し起こって,それが直径の不規則なゆらぎとして観察された.18β-Glycyrrhetinic acidを投与してギャップ結合を遮断すると,平滑筋細胞は過分極し,血管壁緊張は減少した.高K^+による収縮は18β-glycyrrhetinic acidにより影響されなかった.内皮細胞は平滑筋-内皮細胞間ギャップ結合を介して平滑筋の膜電位を脱分極側に引っ張ることにより,平滑筋を収縮状態にしていると考えられた.細動脈壁の緊張は生理的な循環調節に不可欠であり,その維持への内皮細胞の関与が示唆された.
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