研究概要 |
cDNA expression array法及び病理組織micro-array法を用いてGenomeの発現様式を総括的、かつシステマチックに行い、NK/Tリンパ腫発症に関与する遺伝子群の分子病理学的解析をすることにより腫瘍発生機構を解明することを目的に本研究を始めた。その結果血球系特異的protein-tyrosine-phosphatase SHP1(SH-PTP1)のmRNAの強い発現抑制が検出された。SHP1タンパク質の強い発現抑制は、病理組織microarrayによる解析より100%のNK/T lymphomaの検体で認められるほか、その他様々な悪性リンパ腫においても高い頻度で発現の抑制が認められ、広範な種類の悪性リンパ腫の腫瘍化との強い関連が疑われた。様々な種類の血球系培養細胞を用いた解析より、多くの悪性リンパ腫・白血病の培養細胞株においてSHP1蛋白の発現低下あるいは消失が認められ、特に高悪性度の悪性リンパ腫・白血病において強くその傾向が認められた。 さらにSHP1蛋白発現抑制の機構を明らかにする目的でDNA methylationの解析を行った。培養細胞を用いた解析からSHP1遺伝子の調節領域のCpG islandに高度のメチル化が検出された。またSHP1-DNAのメチル化はATL, NK/T lymphoma, ALL, AML, CML患者検体に極めて高頻度に見いだされ、メチル化によるSHP1遺伝子発現抑制が発症機構の中で重要な役割を果たしていることが推測された。またALL, AML, CML患者の完全寛解期にはSHP1 DNAのメチル化が完全に消失した。5AzaCdR処理によりDNA脱メチル化すると多くの細胞がSHP1蛋白の発現誘導が起こることが観察された。さらにSHP1遺伝子領域についてゲノムの詳細を調べたところ、約80%のALL患者にLOH (loss of heterozygosity)が検出された。 以上の結果よりSHP1遺伝子の発現抑制はNK/Tリンパ腫だけでなく多くの悪性リンパ腫・白血病でみられ、造血器腫瘍一般の現象であることが明らかとなった。またSHP1遺伝子発現の抑制・消失は、SHP1-DNAのメチル化による不活化等epigeneticな変化、及びLOH等geneticな変化双方によって引き起こされ、造血系腫瘍の発症に重要な役割を果たしていることが示された。
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