研究概要 |
クロム作業従事者と一般集団に発生した肺扁平上皮癌組織において、マイクロサテライトマーカーを用いたLOH検索と、細胞周期制御に関与する蛋白に対するマーカーを用いた免疫組織化学的検索を行った。 LOH解析は、当院にて切除されたクロム従事者の扁平上皮癌(クロム肺癌)7例を対象として用いた。また、対照として年齢・性・喫煙指数を一致させた扁平上皮癌10切除例を用いた。材料は手術により切除された肺材料のホルマリン固定パラフィン切片で、マイクロダイセクションによってDNAを採取した。使用したマイクロサテライトマーカーはD3S1300,CI31107,D5S644,D9S171,mfd220,RBi2,TP53である。Informtiveであったのはクロム肺癌が6例、対照例が10例であった。D3S1300,C131107,D5S644ならびにRBi2においては、クロム肺癌と対照例との間にLOH陽性の頻度の明らかな差はみられなかった。TP53についてはクロム肺癌例では6例中3例(50%)に、対照例では10例中8例(80%)にそれぞれLOH陽性であった。また、mdf220については、対照例においてLOH陽性の頻度が高い傾向がみられた。 細胞周期調節蛋白の発現異常については、クロム肺癌7例と対照例10例における病変部のホルマリン固定パラフィン切片に対しp53,MDM2,p14ARF, p21及びRb,サイクリンD1,p16の抗体を用いた免疫組織染色を行った。クロム肺癌における発現異常の頻度はP53,MDM2,p14ARFは各々71%,43%,0%、またp16,Rb,サイクリンD1は各々71%,0%,29%廿あった。これに対し、対照例の発現異常の頻度はp53,MDM2,p14ARFは各々80%,40%,10%、またp16,Rb,サイクリンD1は各々60%,20%,30%であり、クロム肺癌例と対照例に差はみられなかった。 今回の免疫組織化学的検索から、クロム従事者における扁平上皮癌と一般集団発生の扁平上皮癌における細胞周期調節蛋白の発現には差がみられなかった。また、LOH解析に関しては、TP53、Rbi2について、クロム肺癌と一般扁平上皮癌に相違は検出されなかった。しかし、9qのLOHに関して、両者は異なった性質を示している可能性が示唆された。
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