研究概要 |
L-セレクチンを介したリンパ球ホーミングが移植肝の急性拒絶反応でみられるリンパ球の浸潤に関与するか否かを検討した.病理学的に急性拒絶と診断された8症例の肝移植患者から移植直後ならびに急性拒絶反応時に採取された肝生検組織に対し,peripheral node addressin(PNAd)に対する単クローン抗体,MECA-79で免疫染色し,2例で急性拒絶時にのみ門脈域の血管内皮にPNAdの発現を認めた.L-セレクチンのリガンドである6-sulfo sialyl Lewis Xはコア20-グリカンの非還元末端に存在することから,コア2O-グリカンの合成を触媒する糖転移酵素,core2β6GlcNAcT-l(C2GnT-l)に対する抗ペプチド抗体を作製し免疫染色した.その結果,PNAdを発現した血管内皮はC2GnT-l陰性であり,また6-sulfo sialyl Lewis Xを含むLewis X関連糖鎖を認識する単クローン抗体,HECA-452とも反応しなかった.一方,Burnham lnstitute,福田穰教授との共同研究で伸長型コア1O-グリカンの合成に重要な糖転移酵素,core1 extension β3GlcNAcTのcDNAを単離し,PNAdがGalβ1→4(sulfo→6)GlcNAcβ1→3Galβ1→3GalNAcであることを示した.また,コア20-グリカンだけでなく,伸長型コア10-グリカンの非還元末端にも6-sulfo sialyl Lewis Xが生成され,L-セレクチンのリガンドとなることを証明した.以上の結果より,急性拒絶時では門脈域の血管内皮にPNAdが発現し得るが,その非還元末端に6-sulfo sialyl LewisXは合成されず,急性拒絶反応の病態にL-セレクチンを介したリンパ球ホーミングが関与する確証は得られなかった.
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