研究概要 |
細胞膜表面においては、種々の細胞増殖因子前駆体や細胞外基質分解酵素前駆体の活性化とその制御が活発に行われ、細胞の増殖や分化、遊走・浸潤に重要な意義を持っている。この活性化反応は活性基にセリン残基を有するセリンプロテアーゼにより触媒されることが多い。一方、セリンプロテアーゼ活性はセリンプロテアーゼインヒピターによって制御されている。Hepatocyte growth factor(HGF)activator inhibitor type 1とtype 2 (HAI-1&HAI-2)及びamyloid β protein precursor (APP)は細胞膜結合型セリンプロテアーゼインヒビターで、細胞膜上におけるセリンプロテアーゼ活性調節に重要な役割を持つと考えられる。本研究はこれらの膜結合型インヒビターの上皮細胞増殖と分化、遊走・浸潤における役割を解明することを目的として行った。 平成12年度の成果として、(1)大腸癌細胞における肝細胞増殖因子(HGF)活性化機構を解析し、HGF活性化酵素(HGF activator)とそのインヒビター(HAI-1)の局在を明らかにし(Cancer Res.,60:6148-6159,2000)、(2)HAI-1による細胞周囲HGF活性化制御機構の解明とHAI-1による、概念的にも全く新しい細胞周囲酵素活性制御機構を提唱するとともに(J. Biol. Chem.,275:40453-40462,2000)、(3)APPの大腸癌細胞増殖における役割の解明(Int. J. Cancer,92ÅF31Å139,2001)、等の成果を得た。 平成13年度は、上記の成果を踏まえ、細胞表面におけるHGF活性化に重要な役割をもつHGF acttivatorとHAIの遺伝子改変マウスの作成をすすめ、HGF activatorノックアウトマウスの作成に成功するとともに、HAI-1ノックアウトマウスを作成するための遺伝子地図の作成(Biochim. Biophys. Acta,1519:92-95,2001)とターゲティングベクターの構築を終えた。また、HAI-2発現の細胞遊走・浸潤能にたいする影響を検討し報告し(Int. J. Cancer,93:339-345,2001)、mouse HAI-2のドメイン機能解析を行った(Biochem. Biophys. Res. Commun.,290:1096-1100,2002)。更に、ヒトHAI-2の遺伝子解析をすすめる過程で、HAI-2とのキメラmRNAを形成する新規ペプチド遺伝子を発見し、H2RSP(HAI-2-related small peptide)と名付けた。H2RSPは核移行シグナルをコードしており、消化管上皮細胞に発現すること、また、上皮細胞の分化に伴って核に移行することを見出し報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun.,288:390-399,2001)。上記、遺伝子改変マウスの作成と共に、今後、粘膜上皮細胞の再生・分化の研究に、新しい知見をもちこむための貴重な成果であると考えている。
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