研究概要 |
腸管ムシンはおもに杯細胞から分泌される巨大な糖タンパク質である。腸管ムシンは粘膜上皮を保護すると共に,寄生虫,細菌などから生体を守る役割を果たしている。腸管寄生虫感染やある種の大腸癌などで著しいムシン分泌の亢進が見られる。生理的条件では,ムシン分泌は副交感神経の支配を受けている。しかし,寄生虫感染など非生理的条件でのムシン産生の亢進メカニズムはよく分かっていない。われわれは,ムシン産生ヒト大腸癌細胞株LS174TとHT29を用いて,ムシン産生調節に対するサイトカインの効果を調べた。LS174T細胞をIL-13と共に培養すると,ムシン分泌は促進されたがIL-13による細胞数の増加はなかった。RT-PCRによりLS174TとHT29細胞にはIL-4,IL-13,TNF-αのレセプターmRNAが発現していることが確認された。LS174T細胞では,腸管の主要なムシンコアタンパク質であるMUC2のmRNA発現がIL-4,IL-13,TNF-αにより増加した。しかし,HT29細胞ではTNF-αによりMAC2の遺伝子発現は増加したが,IL-4,IL-13によりMUC2遺伝子発現は増加しなかった。LS174TとHT29細胞で,IL-4とIL-13はJAK/STATシグナル伝達系のSTAT6のリン酸化を起したが,TNF-αはSTAT6のリン酸化を起さなかった。IL-4とIL-13はLS174T細胞のMAPKをリン酸化して,MAPK系を活性化することが分かった。TNF-αはLS174T細胞のMAPKをリン酸化しなかった。HT29細胞ではIL-4,IL-13,TNF-αによりMAPKのリン酸化が起きた。MAPKリン酸化の特異的阻害剤であるU0126により,LS174T細胞におけるIL-4,IL-13によるMAC2遺伝子発現の増加と,HT29細胞におけるTNF-αによるMAC2遺伝子発現の増加が阻害された。このことから,LS174T細胞とHT29細胞におけるこれらサイトカインによるMUC2遺伝子発現はMAPKシグナル伝達系を介して行われるというこれまで知られていなかった知見が得られた。
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