研究概要 |
我々は前年度マラリア原虫雄性生殖母体の鞭毛放出を誘導する物資(GAr : Gametocyte Activating Factor)が、ハマダラカ(Anopheles stephensi)唾液腺に含まれており、吸血のときこれを呑み込んでいることを見い出した(Luo et al.,2000;Hirai et al.,2001)。今年度はAn stephensi以外の蚊4種(An omorii, Aedes aegypti, Ae albopictus, Culex pipiens pallens)について唾液腺におけるGAFの存在を検索した。その結果、多少の種差はあるものの、検索したすべての蚊唾液腺にGAFが含まれていることが分かった。ところが吸血の前後の唾液腺におけるGAFを比較してみると、吸血後にGAFが有為に減少するのはAn stephensi, An omorii, Ae aegyptiだけで、Ae albopictus, Cx p. pallensはGAFの減少がほとんどみられなかった。これは前3者は吸血に際し、唾液を消費して(中腸へ取り込んで)おり、後2者は唾液を消費していないことを反映していると考えられる。An stephensi, An omoriiはマウスのマラリアを伝播し、Ae aegyptiはトリのマラリアを伝播するが、後2者はマラリア伝播をしないので、マラリア伝播の条件として、唾液腺から中腸へのGAFの供給が重要であることが示唆された。GAFの本質はxanthurenic acid(XA)であることがすでに分かっているので、今後はハマダラカ唾液腺におけるXAの合成・蓄積を阻害することで、マラリア伝播のできないハマダラカをつくることができるかもしれない。
|