研究概要 |
殺虫剤感受性NIID系統のコロモジラミを用い,DDTとピレスロイド系殺虫剤作用点であるpara-orthologous Na^+チャンネルおよびカーバメイト系と有機りん系殺虫剤の作用点であるアセチルコリンエステラーゼのそれぞれ2086および641アミノ酸残基をコードするcDNA配列を新たに決定した。フェノスリン浸透ろ紙にシラミを3時間継続接触させノックダウンをみる処理法によりNIIDコロモジラミの薬剤感受性を測り,成虫のKC1とKC99をそれぞれ20mg/m2と54mg/m2と推定した。このKC99値をフェノスリン抵抗性個体の最低識別濃度とし,この濃度以上でノックダウンしなかった個体については,KC1値とテストに用いた濃度との比をとることにより抵抗性比の最小推定値を表すこととした。埼玉県,東京都,神奈川県で採取したアタマジラミ10コロニーのフェノスリン感受性を調べたところ3コロニーが抵抗性であった。国内では初めてのピレスロイド剤抵抗性を確認した。抵抗性比が最も高く推定されたコロニーでは少なくとも160倍の抵抗性比を示した。アタマジラミのフェノスリン感受性と抵抗性のそれぞれ1個体のNa^+チャンネルcDNA全コード配列を比較した。感受性個体はNIIDコロモジラミの配列と比較して1塩基の同義置換があるのみだった。抵抗性個体は同様な比較をすると23個の塩基置換を有し,この内4つがD11E, M850I, T952I,およびL955Pのアミノ酸置換を示し,これらのアミノ酸置換の中にピレスロイド低感受性に寄与する点突然変異が含まれていると考えられる。これらのアミノ酸置換のうち,ドメインIIの2つの置換T9521とL955Pは2000年に公表された米国・英国産のピレスロイド系殺虫剤抵抗性コロニーに見出された抵抗性特異的アミノ酸置換に一致した。これらに対応した塩基置換に基づけば,試料入手の容易な卵や死虫を用いて,簡敏な抵抗性遺伝子の分子診断が可能となることを示唆した。
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