研究概要 |
インフルエンザウイルス非粒子構成タンパク質NS1は分子量わずか26kDであるが多くの機能を持つ.その内の1つとして,我々はNS1がRNA結合活性を持つことを明らかにしたが,最近,このRNA結合能が,インフルエンザウイルスのインターフェロン抵抗性と密接に関係していることが明かにされ,このウイルスの病原性に対するNS1の重要性の認識が高まった.このように,多機能タンパク質NS1は種々の宿主細胞機能を制御することにより,ウイルス増殖をいろいろな段階で調節する.これまで,病原性決定要因として血球凝集素の切断が主に研究されて来たのに対し,NS1をターゲットとすることにより新たな局面を目指すものである.本研究ではNS1のRNA結合能を詳細に解析し,病原性の指標としてのPKR活性化との関係を調べた. (1)C末側によるNS1のPKR活性化阻害の調節機構について NS1のRNA結合必須領域はN末側の82アミノ酸に限局しており,PKR活性化を強く阻害する.このRNA結合活性は引き続く60以上のアミノ酸配列の付加により減弱され,さらにAクラスターに結合しなくなる.(1-82)NS1,完全長NS1ともUクラスターに結合することが新たに明らかになり,vRNA分節の5'末端の5-6塩基のUクラスターに強固に結合する. (2)リン酸化によるNS1の機能の調節 NS1は複数のSer/Thrのリン酸化を受けるが、その部位の同定を行った。リン酸化によりRNA結合能が低下するがPKR活性化阻害に対する影響はなかった。これらのリン酸化部位をAlaやAspに置換したNS1を作成し,それぞれの部位のリン酸化の影響を調べた.また感染細胞内の核や細胞質に分布するNS1、またvRNPやリボゾームに結合しているNS1のリン酸化の度合いを感染時間を追って定量したが、存在部位による差は認められなかった。
|