研究概要 |
がんの原因として、食餌性因子は約35%を占めているといわれており、最も重要な因子である。現在、抗酸化物質として注目され、健康食品等にしばしば用いられるベータカロチンやイソチオシアネート類についてその酸化促進作用について検討した。ベータカロチンの代謝物であるレチナールおよびレチノールはヒト培養細胞において酸化的にDNAを損傷した。レチナールおよびレチノールによる酸化的DNA損傷はスーパーオキサイド生成量と相関することを見い出し、抗酸化作用のみならず酸化促進作用を持つことを示した(J.Biol.Chem. 275,2003,2000)。わさびやブロッコリー等に含まれるイソチオシアネート類が銅イオン存在下でDNA損傷し、これにはスルフヒドリル基が関与することを見い出した(Free Radic. Biol. Med. 28,797,2000)。多環芳香族アミノ化合物は、従来、その代謝物によるDNA付加体形成が発がんに関与すると考えられてきた。しかし、加熱した油脂中に生成することが見い出されている4-アミノビフェニール(Free Radic. Biol. Med. 30,765-773,2001)、調理加熱した食品中に検出されるヘテロサイクリックアミンPhIP(Carcinogenesis in press)およびアミノフェニールノルハルマン(Mutat. Res. 494,63-72,2001)は、いずれもそのN-ヒドロキシ体代謝物が酸化的にDNAを損傷することを明かにした。さらに生体内還元物質NADHの存在下では低濃度でもDNA損傷することを見い出した。小麦改良剤として用いられる食品添加物の臭素酸カリウムはグルタチオン、システイン等のSH基を有する生体内還元物質の存在下で活性化され、グアニン、特にGGあるいはGGGのようなグアニンが連続する塩基配列の5'側のGに生じやすいことを見い出した(Chem. Res. Toxicol. 14,678-685,2001)。 以上のように、これらの食餌性因子は代謝や生体内物質による活性化でヒト遺伝子を損傷する可能性が示された。食餌性因子においても活性酸素が発がんに関与する可能性を示した。
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