研究概要 |
本研究は受傷後経過時間の推定,すなわち創傷の陳旧度の判定および受傷時期の生前・死後の鑑別に有用なマーカーの検索とその評価を目指したものである。実験モデルの作成にあたり,侵襲形態として切創・熱傷・電撃等について検討を行ったが,侵襲量定量化が容易であること等からマウス切創モデルを採用することとした。血管増殖に関わるサイトカインとされているbasic fibroblast growth factor(bFGF)およびvascular endothelial growth factor(VEGF)の発現動態を免疫組織化学的に観察し,さらにその遺伝子の発現についてin situハイブリダイゼーションやリアルタイム定量PCR法などの技法を用いて検討した。その結果bFGFは受傷後0.5〜1時間後の線維芽細胞と24〜144時間後の表皮細胞において,VEGFは72,144時間後の表皮細胞において発現を認め,これらの染色像は死後変化に対して比較的耐性があり,また死後損傷によっては発現されないことが確認された。特に前者は表皮細胞のみならず線維芽細胞でも発現が確認できること,受傷後早期にタンパク発現を認めることなどから,受傷後経過時間推定にとってより有用なマーカーたりうると考えられた。そこでさらに,bFGFおよび線維芽細胞から発現しているとされるfibronectinについてその遺伝子発現について検討したところ,bFGFは受傷後早期に遺伝子発現量が増加するが,fibronectinは受傷後発現量は増加するものの特徴的な経時的変動を認めなかった。またbFGFについて他臓器の損傷に対しても同様に検討を進めたところ,肝損傷・腎損傷では受傷後遺伝子発現量の変動を認めなかったが,脳損傷においては受傷後経時的に遺伝子発現量が変動していることが明らかになった。以上の知見より,bFGFの遺伝子発現パタンは外胚葉系組織の損傷において,受傷後急性期の指標となりうる可能性が示唆された。
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