研究概要 |
A. Intimal tearの部位,形態と解離の進展・左冠動脈解離合併との関連 Stanford A型急性大動脈解離による突然死剖検例(DeBakey I型52例/II型63例)について病理学的に検討した.その結果,II型ではITがI型に比較して近位側に存在する傾向を示した.また,I型ではITが右前壁に認められる例が多いのに対して,II型では左後壁にも少なからずITが存在していた.突然死例では,一般には稀とされるII型解離が多いことが特徴であり,今回の結果はIT自体の部位や形態によってII型になりやすい要因が存在することを示唆していると思われた.また,左冠動脈解離を伴う13例のITについて,冠動脈解離を伴わない131例との比較検討を行った.その結果,冠動脈非解離例ではITが上行大動脈の右〜前壁上半に認められることが多いのに対して,左冠動脈解離例では左〜後壁の弁輪直上部にITが認められることが圧倒的に多いことが示され,左冠動脈解離の合併はITの存在部位の特異性に起因する疑いが強い. B. Intimal tear近傍を主とした大動脈基礎病変の病理組織学的検討 Stanford A/B型例の大多数において,IT近傍では所謂cystic medionecrosisの像が観察され,3例には多核巨細胞を伴う著明な肉芽腫性動脈炎がみられた.これらのことから,大動脈解離の発生には弾性線維の脱落を伴う中膜病変による壁の脆弱性が基礎病変として重要であると考えられる.IT近傍の大動脈組織像をデジタル化し,各事例のIT近傍における病変部と非病変部の面積をCADソフトによって算出した.また,大動脈の組織所見の経時変化を医療過誤被疑事件に応用し,受診時期と発症時期の前後関係を病理学的に特定した.
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