研究概要 |
これまでわれわれはSLE患者末梢血T細胞ではζ鎖の発現が低下あるいは欠損しているために細胞内のシグナル伝達に異常を来すことを報告してきた(Int.Immunol 1998,J.Autoimmunity 1998)。さらに大部分のSLE患者T細胞では異常なalternative splicingが生じたために作られた560bp短い3'UTRをもつζ鎖mRNA(ζmRNA/as-3'UTR)が優位に発現するためにζ鎖の発現が低下する可能性を報告した(Arthritis Rheum,1999)。そこで本研究では、このような短い3'UTRを持ったζ鎖mRNAが優位になることでζ鎖のタンパク発現が低下するかどうかを検討した。 1)ζmRNA/as-3'UTRとζ鎖タンパク発現との定量的検討 SLE患者を対象とし、健常人を陰性コントロールとし、ζmRNA 3'UTR cDNA発現を半定量PCR法によって定量化し検討すると、SLE患者T細胞では健常人と比較して、wild form 3'UTRをもつζ鎖mRNA(ζmRNA/w-3'UTR)発現が有意に低下し、ζmRNA/as-3'UTR発現が有意に亢進していた。ζ鎖タンパクをwestern blot法で定量化した結果、ζ鎖タンパク発現とζmRNA/w-3'UTR発現とに有意な正相関が、ζmRNA/as-3'UTR発現とに負相関が認められた。 2)in vitro translationでの検討 as-3'UTRとw-3'UTRをそれぞれ含んだ全長ζmRNAをpSP64Poly(A) vectorに組み込み、ζ発現をin vitro translationで誘導0分から120分後のζ鎖発現をSDS-PAGEおよびautoradiographyで比較した結果、ζmRNA/as-3'UTRからのζmonomerおよびζhomodimer発現はζmRNA/w-3'UTRと比較して有意に低下した。 3)Recombinant retrovirus vectorを用いた系での検討 ζcDNA/w-3'UTRとζcDNA/as-3'UTRとをRT-PCRで増幅しpDON-AIに組み込み得られたrecombinant retrovirusをMA5.8細胞に加えMA5.8 mutantを作製した。FACSならびにビオチン標識した細胞表面分子を抗原とした免疫沈降法で検討してみると、WTの細胞表面上にはζ鎖のみならず他のTCR/CD3複合体構成成分も発現されていたが、AS3'UTRではintrinsic CD3ε以外はTCR/CD3複合体構成成分だけでなくζ鎖発現も認められなかった。また抗CD3抗体で刺激後、WTではIL-2産生が著明に亢進したが、AS3'UTRのIL-2産生レベルはMA5.8やNEGと同程度で、AS3'UTRでは細胞表面上にζ鎖がないために抗CD3抗体で刺激してもTCRからの刺激が細胞内に伝達されないことが考えられた。さらに、ActinomycinD添加後のmRNA stabilityを検討したところ、AS3'UTRではWTと比較して有意にmRNAのstabilityが低かった。 4)AS3'UTRにおける細胞刺激前後の各種サイトカインあるいは細胞表面上の接着分子発現の検討 RT-PCRならびにFACSで検討すると、抗CD3抗体で刺激後のIL-2,interferon-γ,CD40L, CD25産生上昇はWT3'UTRと比較してAS3'UTRで有意に少なく、CD28産生上昇は有意に増加した。 以上から、SLE T細胞ではζmRNA/as-3'UTRが優位に発現されるもその不安定さゆえにζ鎖タンパクの発現が低下し、その替わりに各種co-stimulatoly pathwayが亢進することが考えられ、SLE発症機序を考える上で重要な知見と考えられた。
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