研究概要 |
胆汁うっ滞性肝機能障害は広範肝切除や肝移植後の術後肝機能障害として,また難治性疾患の肝内結石症をはじめとする胆嚢胆管結石症の結石嵌頓時に認められる閉塞性胆管炎による肝機能障害として引き起こされる.胆汁うっ滞において細菌感染による胆管炎が併発した場合には,胆道系に発した炎症病態がさらに肝へも影響を及ぼし,エンドトキシンによる肝の線維化による組織血流の減少,さらには活性酸素による肝細胞胆管側膜に発現するビリルビン輸送担体含む各種輸送蛋白の機能ならびに発現の低下により胆汁排泄機能が低下して,その結果として黄疸の遷延が生じると考えられる. 原発性肝内結石症に着目し,胆管側膜輸送蛋白の発現異常について解析を行ったところ,リン脂質の排出にかかわるMDR3は,その結石ならびに非結石部位の肝組織において,対照に比較してそのmRNA発現は低下していた.ビリルビングルクロナイドに代表される抱合型代謝物の排出にかかわるMRP2は,本症ではその結石ならびに非結石部位において,対照に比較してそのmRNA発現には差を認めなかった.胆汁酸の排出にかかわるBSEPは,本症ではその結石ならびに非結石部位において,対照に比較してそのmRNA発現には差を認めなかった.これら輸送蛋白の発現異常を反映して,本症では胆汁中リン脂質,総胆汁酸濃度が有意に低値であり,一方コレステロール濃度は比較的保持されていた,これらのことより本症においては,リン脂質ならびに胆汁酸の胆汁排出が障害されている可能性が推測された. 肝胆道系悪性腫瘍による閉塞性胆汁うっ滞症の病態に着目し,本症における経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)の有用性を規定すると考えられる,黄疸肝のビリルビンおよび胆汁酸の胆汁分泌機能を検討するために,PTBD施行例における肝輸送蛋白の発現について解析を行った.閉塞性胆汁うっ滞症におけるPTBD施行例の肝輸送蛋白の解析の結果,減黄良好例では対照肝と比較して抱合型ビリルビンの輸送担体であるMRP2,胆汁酸の輸送担体であるBSEPの発現および細胞内局在は保持されていたが,減黄不良例では発現が低下し,さらにそれらの本来の肝胆管側膜における局在から細胞質への局在へと変化を生じていた(肝輸送蛋白の内在化).これら肝輸送蛋白変化はビリルビンおよび胆汁酸の胆汁排泄能力と相関していたことより,肝輸送蛋白の発現ならびに細胞内局在は,閉塞性胆汁うっ滞症におけるPTBD施行の有用性を規定する重要な因子であると考えられた.
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