研究概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)は世界中で2億人の感染者が存在し年間約百万人が死亡しいる。このHBVは従来4つの血清型に分類されてきたが、現在は7つのgenotypeに分類されている。しかし、現在に至るまでHBVのgenotypeの疫学的、臨床的意義については不明である。そこで本研究では本邦におけるHBVのgenotypeの臨床的・疫学的意義をみるために、北は北大から南は琉球大学までの12施設から全720症例の検体を集め、HBVのgenotypeを測定した。その結果、本邦におけるHBV genotypeの分布はA1.7%,B1.2%,C84.7%,DO.4%,混合型1.0%であった。このことは本邦ではgenotype Cが主で、genotype Bが従であると思われた。しかし、沖縄や東北地方ではgenotype Bが多く、これは日本民族の起源に関係し、縄文人がgenotype Bを、弥生人がgenotype Cを本邦に持ち込んできたためと推定された。また、HBV genotypeの臨床的意義をみるために、HBV genotypeとこれらの検体の臨床データと比較したところ、genotype Bの方がgenotype Cより肝がんは有意に少なく、HBVの増殖に関与するHBe抗原の陽性率がgenotype Cに有意に多かった。HBe抗原はCore promoterとprecore領域の変異により制御されると考えられているので、これらの変異とHBV genotypeの関係をみるためにCase control studyを行ったところ、core promoterの変異がgenotype Cに有意に多く認められた。このことはgenotype Bではcore promoterの変異が起こりにくく、precore領域の変異でHBe抗原の産生が確実に停止され、肝炎が終止し、肝がんへの進展が減少されると推察された。
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