研究概要 |
胃粘膜内に発現させたCOX2と粘膜保護作用との関連を明らかにするとともに,胃粘膜傷害を回避するために開発された選択的COX2阻害剤の胃粘膜に対する安全性を検討した.マウス胃内への酸性化エタノール(AE)(60% ethanol in 0.15M HC1)を経口投与することにより,胃粘膜内にCOX2蛋白を発現させた。COX-2の発現は、正常胃粘膜ではほとんどみられず、AEによるびらん周囲の間質系細胞を中心にみられた. AEを投与し,経時的観察により最もCOX2蛋白が発現すると考えられる24時間後に,95%エタノール(Et)を経口投与した群と,AE投与後,選択的COX-2阻害剤(NS398,20mg/kg)を腹腔内投与した群およびインドメタシン(IM,10mg/kg)を腹腔内投与した群に分けた.Et投与後,1時間後の胃粘膜障害を比較検討した. AEによりCOX-2が誘導された胃粘膜では,NS398により,その後のEtによる粘膜傷害が助長される。一方,COX-2が誘導されていない正常胃粘膜では,NS398はEtの胃粘膜傷害に影響を与えなかった。またCOX-1および2両者を阻害するIMは,COX-2が誘導された胃粘膜ばかりでなく、正常胃粘膜においても,Etによる胃粘膜傷害を増悪した。 ヒト胃線維芽細胞に発現するCOX-2とVEGFの発現の検討を,培養系,およびヒト胃潰瘍組織標本において検討した。胃潰瘍底の線維芽細胞は,PGE2を産生することによりオートクリン,あるいはパラクリンにVEGFの産生を誘導し,血管新生を促進していることを示唆した。また,潰瘍周辺組織の線維芽細胞にCOX-2が発現しており,COX-2介したVEGFの発現を示唆した。 従来のNSAIDに比べ、選択的COX-2阻害剤は胃粘膜傷害が少ないと考えられているが、COX-2が発現した、粘膜障害を有する症例では、治癒が遷延する可能性があるばかりでなく、粘膜障害が増悪する可能性が示唆された。
|