研究概要 |
MIF(macrophage migration inhibitory factor)はホルモンや酵素としての働きも持つ,大変ユニークなサイトカインであり,グルココルチコイドの持つ抗炎症作用に拮抗する.我々は抗MIF抗体投与が、肺への好中球遊走を抑制し、その一部はmacrophage inflammatory protein-2の抑制を介していることを報告した.MIFの肺傷害における役割をさらに解明するために、LPSとは異なる肺傷害モデルについても検証し,さらにトランスジェニックマウスを用いMIFの役割を明らかにしようとした. 1.ブレオマイシン(BLM)肺傷害とMIF マウスにBLMを気管内投与し,投与後の肺組織やBALF中MIF濃度を測定した.さらに,抗MIF抗体を前投与し,肺線維化への影響や生存率も検討した.気管内投与5-10日後には肺組織,BALF中のMIF濃度は有意に上昇し,抗MIF抗体前投与は生存率を著明に改善した.しかし,肺の線維化には改善効果は認めなかった. 2.モノクロタリン(MCT)肺血管障害(肺高血圧症)とMIF SDラットにMCT皮下投与し,抗MIF抗体前投与群とコントロール群で比較した.抗MIF抗体投与はMCTによる右室収縮期圧の上昇を抑制しなかったが,右室/左室中隔比の増加や肺動脈中膜肥厚を抑制し,かつ,直径50um以下の肺小動脈における筋層の出現頻度を抑制した. 3.トランスジェニックマウスを用いた肺傷害とMIF MIFトランスジェニックマウスにおいて,血清MIF濃度や肺でのmRNA発現が確実に増強していることを確かめた.しかし,MIFトランスジェニックマウスにLPSを投与し,コントロールマウスと比較したが,LPS投与後の血清MIF上昇に差がなく,また,病理組織中の好中球遊走についても差を認めなかった. 以上より,抗MIF抗体を用いた異なる肺傷害モデル(肺水腫,肺線維化,肺血管障害)ではいずれもMIFの関与を証明できた.しかし,MIFトランスジェニックマウスでは予想された肺傷害の増強は証明できなかった.このことは,MIFトランスジェニックマウス自体に,正常コントロールマウスとは異なる生体の代償反応が起こっている可能性が考えられた。今後LPSの投与量、投与方法、時間的な検討が必要と考えられる。
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