研究概要 |
胸膜悪性中皮腫の新規癌抑制遺伝子の同定をめざし、染色体3P上の高頻度欠失領域を検索したところ、3p21.33領域に存在するβ-catenin遺伝子が悪性胸膜中皮腫細胞株NCI-H28においてホモザイガス欠失していることを検出した。NCI-H28細胞株のゲノムDNAライブラリーを構築し切断点のクローニングを行った結果、欠失領域はβ-catenin遺伝子のイントロン1に存在し、同じ3p21領域に存在するrbc領域に再構成していることが明らかにされた。rbc領域より、4153bpからなる新規遺伝子MTSK1(仮称)をクローニングし、予想される蛋白1275アミノ酸のアミノ末端領域にはキナーゼモチーフの存在が推測された。さらにノーザンブロット解析を行い、4.7kbと2.1kbのmRNAが同定された。MTSK1は各種ヒト臓器において低レベルで発現している一方、特に精巣に高レベルに発現していることが明らかにされた。また、PCR-SSCP法にて悪性胸膜中皮腫9検体および肺癌検体の計63検体を解析し、いくつかのゲルシフトを見い出した。現在シークエンス解析により、体細胞突然変異の有無を検討中である。今後MTSK1の抗体を作成し、蛋白レベルでの解析に研究を展開する予定である。さらに一方、悪性胸膜中皮腫患者より細胞株の樹立を試み.同一患者より異なる形態像をもつ細胞株2株(Y-Meso8A, Y-Meso8D)を樹立し、ヌードマウスでの移植能の検討を行った。同時に他の悪性胸膜中皮腫細胞株を含め、癌抑制遣伝子(NF2,p16,p53,E-cadherrin)および癌遺伝子(KRAS, NRAS, MDM2)の遺伝子解析を行ったが、Y-Meso8A、8Dにはこれらの遺伝子変異が存在しないことが明らかにされた。
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