研究概要 |
(1)呼吸器系(気管支上皮・肺胞上皮)の上皮異型と染色体・がん関連遺伝子の異常は相関するか、(2)癌患者と非癌患者にみられる上皮異型は、分子生物学的に同じものかといった疑問に対する解答を得るために、経気管支生検(TBB)によって得られた異型上皮について、分子生物学的検討を加えた。TBB標本において気道上皮異型が認められるものを抽出し、異型の程度に応じて、hyperplasia, metaplasia, dysplasiaに分類した。異型上皮のみをマイクロダイセクション法によって単離後、DNAを抽出して検討した。対象としたものは、3p14.2(FHIT)、3p21.3、8p22、9p22、18q21.1のLOHである。また、p53、PCNA、p21の発現とアポトーシスの関連について検討した。 3p21.3ならびに9p22のLOHは早期に出現し異形度の増加と相関すること,8p22や18q21.1は中期以降にみられること,3p14.2(FHIT)のLOHは異型度とは無関係であるが喫煙者に選択的にみられることが明らかになった。興味深いことに、これらのLOHが認められた症例は、基礎疾患として肺癌を有する者と、特発性間質性肺炎(IIP)を有する者に高く、それ以外の良性呼吸器疾患を有する者では低頻度であった。IIP患者に高頻度に肺癌が合併する理由を遺伝子レベルで説明する成績であると考えられた。 以前我々は、気道異型上皮は高頻度にp53蛋白を発現し、その大半は野生型であることを報告した、今回の検討では、p53の発現と有意に相関したのはPCNAのみであり、p21の発現とアポトーシスは相関しなかった。気道上皮細胞を利用したin vitroの実験系より、煙草関連発癌物質はp53蛋白の発現を誘導するものの、p21のユビキチン化によって細胞周期停止のシグナルが停止するとの結果を得ており、TBB標本による検討結果も、この現象にもとづくものと考えられた。現在までの検討結果から、(1)病理学的に上皮異型と診断される形態変化においては、種々の染色体異常がみられること、(2)同様の形態学的変化であっても、癌患者やIIP患者では他の良性疾患より高い頻度でこれらの異常が見られることが示唆された。
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