研究概要 |
(1)昇温脱離ガス発生装置-大気圧イオン化質量分析装置による血液試料分析の検討 他方,代表研究者らが開発した昇温脱離ガス発生装置-大気圧イオン化質量分析装置(TDS-APIMS)を用い,有機物質の一例としてTDS-APIMSの検出法の妥当性を検討した.その結果,乳酸の直線定量範囲は1.0×10-5〜1.0×10-4M,検出限界は1.0×10-5(S/N=2)となった.ラット全血中のLactic acid検出にも成功し,従来法(電極法)と比較して相関があった.必要サンプル量は、正常値(4.4×10-4〜1.8×10-3M)において0.1μl程度の全血を10倍〜100倍希釈するだけで測定でき,電極法(10-100μL)の1/1000にすることができた.ただし,ピルビン酸などの易分解性の有機酸の直接測定は正確に出来なかった.高濃度サンプルを導入すると1時間以上に渡りイオンが滞留し測定を妨害した.現在,GC-MSと同様に肺高血圧症関連低分子化合物の探索のため,TDS-APIMSによる微量採血による有機化合物の検出方法の開発をさらに進めた.生体内代謝情報を得るには試料を微量または非侵襲的に採取し,分析できることが望ましい.そこで,超微量試料でも分析可能な昇温脱離ガス発生装置をさらに改良し,nLの試料でも分析可能な仕様にした. (2)肺高血圧症における微量化合物の検討 肺血圧症に関連する微量化合物としての血管新生関連細胞内情報伝達因子についての報告は少ない.そこで,モノクロタリン(Mct)誘発性肺高血圧モデルにおける肺組織内血管新生因子の濃度と分布を検討した.6週齢のSPF-SD雄ラットにMctまたは生食を1回皮下注射し,3週間後,摘出肺組織のPKA→Erk-1→Ets-1の情報伝達因子についてWestern blotを実施した.また,肺血管と気道を低圧灌流固定し,Ets-1抗体を用いて肺組織の免疫組織化学的検討を行った.Mct投与群のPKA, Erk-1およびEts-1は,S群と比較し,各々,49,52および26%まで有意に低下した.肺の免疫組織化学染色ではS群のEts-1は、Mct群では口径100μm以下の非筋性血管内皮のEts-1の発現は抑制され,特に肺胞上皮・毛細血管ではその減少が著しく認められた.Mct肺高血圧完成期においては小肺血管の狭窄または閉塞に伴い,何らかの機序でPKA→Erk-1→Ets-1経路がいずれも抑制され,肺高血圧症の不可逆的な進展に関与していることが示唆された.また,Mctは気道・肺胞上皮細胞の増殖にも影響を及ぼし,気道系のリモデリングにも関与している可能性も考えられた.
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