研究概要 |
CAGリピート病は,原因遺伝子のcoding region内にあるCAGリピートの異常延長により引き起こされる遺伝性神経変性疾患である.異常延長したCAGリピートがタンパクに翻訳されて異常延長ポリグルタミン鎖となり神経変性を起こすことが基本病態であると考えられているが,未だその分子メカニズムについては明らかではない.我々は今まで代表的CAGリピート病である球脊髄性筋萎縮症(SBMA)を中心にその病態発現機構について研究を行ってきた.本研究ではアデノウイルスベクターを用いて異常延長ポリグルタミン鎖を発現させた培養神経系細胞モデルを構築し,これにDNA chip技術を用いた遺伝子発現解析を応用しCAGリピート病の神経変性病態に関連する分子群の同定を目指している.今年度は昨年度構築したアデノウイルスベクターを用いて異常延長ポリグルタミン鎖を発現させた培養神経系細胞モデルの細胞生物学的な詳細な解析に加え,DNA chipによる遺伝子発現解析を行った.異常延長ポリグルタミン鎖を発現させた培養神経系細胞(SH-SY5Y)は,アデノウイルス感染後経時的に核内凝集体の増加と共に神経突起の細小化が観察された.細胞死についてはpropidium iodide染色やLDH release assayでは陰性であったが,感染後8日でのMTS assayで陽性であった.遺伝子発現解析では約10,000遺伝子が載っているDNA chipによる解析において神経軸索伸展に大きく関与する遺伝子が異常延長ポリグルタミン鎖発現群において有意な上昇を認めた.さらにこの発現変動はTaqMann probeを用いたquantitative RT-PCRでも確認された.SBMA動物モデルにおいても初期より神経軸索萎縮が認められ,機能障害の程度とよく相関することが最近判明したが,本研究の結果はこの事実とよく一致する.
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