研究概要 |
McLeod症候群はX染色体にコードされる37kDaの膜蛋白質であるKx抗原の欠損により発症する,まれな伴性劣性遺伝性神経筋疾患である.本症は有棘赤血球に加え,性格変化,舞踏運動といったハンチントン病類似の中枢神経症状,血清CK値の著明な上昇,四肢の脱力・萎縮といった筋症状などを呈する.しかし,なぜ本症に神経筋病変が発症するのかは全く不明である.本研究の目的は,まず自験例のXK遺伝子解析を行い分子遺伝学的異常を明らかにするとともに,骨格筋および中枢神経系におけるKx抗原の発現と局在を明らかにすることである.以下の研究を行った. 1)XK遺伝子の解析:末梢白血球よりゲノムDNAを抽出し,XK遺伝子の3個のエクソンをPCRにて増幅し,直接塩基配列法により塩基配列を決定した.その結果,患者ではコドン151における一塩基(C)の挿入を認め,この変異は今まで報告の無い新たな遺伝子変異であった.母親は正常と異常のヘテロ接合体であり,父親と姉は正常であった. 2)抗Kxペプチド抗体の作成:ヒトKx抗原のアミノ酸配列を参考にして合成ペプチド(KNGLSEEIEKEVGQAEG)を作成しウサギに免疫し,Kx抗原に対する抗ペブチド抗体を作成した. 3)生検骨格筋におけるKxの発現:生検骨格筋凍結標本を用いて免疫組織化学を施行した.正常筋においてはKxは筋鞘核,間質および細胞質に濃染し,筋鞘膜は染色されなかった.一方,McLeod症候群患者生検筋においては正常に比べて正常筋で認められた縞状の構造が認められず,sarcoplasmic reticulumの染色性が低下していると思われた. 4)ラット脳におけるKxの発現:ラットの脳を用いて免疫組織化学を行ったところ,Kx抗原は脳の広範囲に発現しており,神経細胞の核および細胞質周辺を中心として染色性が認められ,神経線維は染色されなかった.RT-PCR法を用いた検討においても同様に,XKmRNAは大脳および小脳に広範囲に発現していた.
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