研究概要 |
高齢ハンセン病患者において、痴呆発症頻度が低いことが示されている。痴呆発症を制御する未知因子として、抗炎症作用を有するハンセン病治療薬、スルフォン剤(DDS)がその有力候補として挙げられていたが、このDDSをはじめ主なハンセン病治療薬は、ハンセン病患者の痴呆発症頻度、in vitroにおいては神経細胞死、アミロイド蛋白による神経細胞毒性に何ら影響を与えないことを明らかにしてきた。そこで次に、ハンセン病の原因菌Mycobacterium leprae(M.leprae)の中枢神経感染が、ハンセン病患者の脳代謝に影響を及ぼし痴呆発症を制御するという仮説の基、M.lepraeの感染がアルツハイマー病(AD)関連遺伝子発現に及ぼす影響、並びにアミロイド蛋白による培養神経細胞毒性に及ぼす影響について検討し以下の成果を得た。 (1)AD関連遺伝子(APP,PS1,PS2,apoE,tau)はヒト神経系細胞株で構成的発現を認めること、APP,PS1,apo E mRNAの発現は、M.leprae感染による影響を受けないこと、PS2 mRNA発現は、細胞特異的にM.leprae感染の影響を受けること、Tau遺伝子発現は感染によりup-regulateされることが明らかとなった。 (2)AD発症との関与が報告されているアポEプロモーター、アルファ2-マクログロブリン、タウ、カテプシンG遺伝子多型頻度の解析を行った。しかしながらヒト由来試料の利用に対する倫理的配慮はもとより、本研究期間内においてハンセン病国家賠償訴訟の勝訴・和解があったことで、ハンセン病患者を取り巻く社会情勢は大きく様変わりしたことから、研究の実施、成果の発表には他の疾患の患者よりも多大な配慮が必要となってきた。したがって成果の公表は見合わせる事とした。 (3)M.lepraeを感染させたグリア細胞が産生する可溶性因子、またM.leprae特異的な膜成分が、アミロイド蛋白による神経細胞のアポトーシス、細胞毒性を減弱する効果を見いだした。イオン交換法、ゲル濾過等の手法で、感染グリア細胞培養上清より活性因子の精製を行った。
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