研究概要 |
動脈硬化病巣は,高脂血状態のもと血液細胞と血管組織間で誘導される複雑な炎症反応の結果形成される.最近新たな動脈硬化危険因子の発見に注目が集まっており,中でも免疫系因子が動脈硬化発症・進展に深く関与していると考えられている.マウスに高脂肪食を負荷することで動脈硬化病巣を生じさせることができ,近交系マウスの系統によって,病巣が全く形成されない抵抗性系統と,はっきりと形成される感受性系統が存在することが報告され,遺伝学的解析により複数の修飾遺伝子の存在が予測されている.骨髄キメラマウスを用いて動脈硬化進展修飾遺伝子の機能を明らかにした.著しい動脈硬化病巣を呈する28-29週齢アポE欠損マウス(apoE^<-/->)を致死量放射線照射してレシピエントとした.動脈硬化抵抗性SJLマウス,または感受性B10.Sマウスより骨髄細胞を分離し,抗Thy1.2抗体と補体処理で成熟T細胞を除去したのち,レシピエント1匹当り1.5×10^7個と,レシピエントと同系のapoE^<-/->由来骨髄細胞0.5×10^7 個を混合し,尾静脈より注入してミックス骨髄キメラマウス([SJL+apoE^<-/->→apoE^<-/->],[B10.S+apoE^<-/->→apoE^<-/->])を作製した.これらのマウスを普通食で飼育し骨髄移植10週後に屠殺した.採取したキメラマウスの末梢血は,フローサイトメトリーで造血系細胞の置換を確認,酵素法で血清脂質値を測定した.血清アポE蛋白はwestern blottingで評価し,病巣は上行大動脈の連続切片を脂肪染色して面積を求め検定した.骨髄キメラマウスでは70-80%が異系ドナー由来の白血球に置換されていた.血清脂質は動脈硬化惹起性non HDLコレステロールが著しく低下し,動脈硬化感受性系統B10.Sで置換したキメラマウスの方が、抵抗性系統SJLで置換したキメラマウスにくらべて有意に低値を示した,血清アポEはわずかではあるが両骨髄キメラマウス群で同程度発現,動脈硬化病巣は著しく縮小し,改善度は動脈硬化抵抗性系統SJLで置換したキメラマウスの方が著明であった.腹腔Mφ泡沫化実験(in vitro)ではSJL由来MφはB10.Sのものに較べてAc-LDLの取り込みが少なかった.病巣退縮の一部はドナーマウスの骨髄由来細胞に起因し,Mφ機能が病巣進展に関与していることが示唆された。動脈硬化修飾遺伝子ath7は骨髄由来細胞の性質を規定していると考えられた。
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