研究概要 |
心不全(CHF ; congestive heart failure)患者において,末梢血中の腫瘍壊死因子(TNF-α ; tumor necrosis factor-α)値が上昇しており,CHF重症度(NYHA class, BNP ; brain natriuretic peptide値)と相関関係があると報告されている。最近,不全心筋内にTNF-αmRNAおよび蛋白の発現が証明され,心筋自体がTNF-αの産生部位であるとの説がある。一方,以前よりエンドトキシン(LPS ; lipopolysaccharide)刺激により健常人単球上にTNF-αが発現することが知られているが,心不全患者の単球を用いた研究はなく,CHFにおけるTNF-αの産生部位は未だ不明である。またC-reactive protein(CRP)は肝にて産生される急性反応性蛋白の一種で,急性炎症,膠原病等で上昇する。最近の研究により,CRPは冠動脈粥腫内に多数存在し,単球上に炎症性サイトカイン(IL-6,IL-1β, TNF-α)を誘発し,急性冠症候群(ACS ; Acute coronary syndrome;急性心筋梗塞,不安定狭心症等)患者において上昇し,CHF発症に関与していることが判明した。対象と方法:健常者(10例,平均年齢50歳)とCHF患者(14例,平均年齢52歳,平均左室駆出率22%)より単核球(PBMC ; peripheral blood mononuclear cell)を抽出。無刺激下(control),LPS(100pg/mL;粥腫内に存在する濃度),CRP(10μg/mL ; ACS患者に認められる濃度)それぞれ単独,CRP+LPS刺激時におけるPBMC上に発現するTNF-α値をELISA法にて測定。結果:1)Control、LPS、CRP単独刺激時、CRP+LPS刺激時のいずれにおいても,CHF患者のPBMC上に発現するTNF-αは,健常者のそれらに比して有意に高値であった。2)CHF患者において,重症度(NYHA class, BNP値),血行動態の指標(肺動脈圧,肺動脈楔入圧等)はTNF-α値と有意な正の相関関係を認めた。以上よりCHF患者において,単球がTNF-αの主たる産生部位であることが示唆された。今後の研究:1)心不全患者において,心臓カテーテル検査時に心筋生検を施行し,心筋内TNF-αの蛋白・mRNA量(RT-PCR法)を測定し,末梢単球上に発現するTNF-α量と比較。2)β遮断薬が,重症心不全の予後を改善する機序に抗サイトカイン作用が指摘されている。ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体桔抗薬,利尿薬等を内服中の患者で,β遮断薬内服前,内服4週後において,PBMCを分離し,Control、LPS、CRP単独刺激時、CRP+LPS刺激時における単球上に発現するTNF-α量を比較し,β遮断薬の効果を調べる。3)上記2)の実験において,Flow cytometry法にて,単球上に発現するTNF-α抗原量を測定。4)心不全患者において,単球内に発現するTNF-αの受容体(TNF-α receptors ; TNF-R1 and TNF-R2)について,その発現量を正常人のそれと比較する。
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