研究概要 |
小児の難病の一つである先天性高乳酸血症の病因としてピルビン酸脱素酵素(PDH)複合体異常症の頻度が高い。PDH複合体異常症の中にはPDHホスファターゼ(PDPase)異常に基づくと推測される症例が存在するものの,これまでPDPase異常症と確定診断された症例は存在しない。先天性高乳酸血症の病因としてPDPaseの異常を分子遺伝学的に直接証明することにより,本症の早期病因診断と新しい治療法の開発とが期待される。そこで本研究ではPDPase異常症が疑われる先天性高乳酸血症患児においてPDPase異常を分子遺伝学的に明らかにするために,まずこれまでに報告されているラットPDPase cDNAの塩基配列を参考にしてPCR法により,2種類のヒトPDPaseに対するcDNA(PDPc1,PDPc2)をクローニングしし塩基配列を決定した。ヒト染色体上でのPDPc1およびPDPc2遺伝子の局在をクローニングしたcDNAをプローブとしたFISH法により検討し、PDPc1遺伝子が8q22-23上に,PDPc2遺伝子が3q27-28上に局在することを明らかにした。次いで,酵素活性測定によりPDPase欠損症が疑われる患者においてその病因を明らかにするために,患者におけるPDPc1およびPDPc2に対するcDNAでの塩基配列を解析し,遺伝子変異の解析を行い,PDPase活性が低下していた先天性高乳酸血症患者において,PDPc2遺伝子にアミノ酸置換を伴うA716T(D239V)の遺伝子変異を同定した。この変異によってアミノ酸置換がおこるD239はヒト,ラット,牛のPDPc1,PDPc2のすべてにおいて保存されおり,また機能ドメインを構成する重要なアミノ酸であり,このPDPc2遺伝子変異が本患者における先天性高乳酸血症の原因であることが明らかとなった。
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