研究概要 |
下垂体前葉の器官形成過程は,口窩外胚葉からラトケ嚢の形成に始まり、最終的には下垂体前葉に特異的な5種類のホルモン産生細胞へと機能分化する。この発生、分化過程は、ラトケ嚢内で発現する種々の転写因子群のカスケード機構によって制御されており、先天性複合型下垂体機能低下症(CPHD : Combined Pituitary Hormone Deficiency)はこれら転写因子のどの異常によっても起こりうると推測される。ヒトCPHDの病因として現在まで,1)PIT1異常症,2)PROP1異常症,3)HESX1異常によるSepto-Optic Dysplasia (SOD),4)LHX3異常症が同定されているが,本邦CPHD症例ではPIT1異常症以外の報告は極めて少なく,多くのCPHD症例の病因は依然不明である。今回,CPHDの病因解析とその臨床像の確立ならびに本邦CPHDの実態を明確にすることを目的に,インフォームド・コンセントを得て集積した本邦およびロシア人のCPHD症例とSOD症例を対象としてPIT1,PROP1,HESX1,LHX3遺伝子の解析を施行した。 ロシア人CPHD症例ではPROP1異常症が高頻度に検出されたが,本邦CPHD症例では遺伝子異常は検出されず,本邦にはこれら転写因子の異常によるCPHDは極めて少ないと推測された。 SOD症例のHESX1遺伝子解析では、本邦およびロシア人症例ともにHESX1遺伝子異常は検出されず、HESX1はSODの主たる病因ではないと考えられた。 今後,さらに下垂体発生分化に関わる新たな因子の同定や解析が必要である。 また,PROP1遺伝子異常の同定されたロシア人CPHD症例の臨床的検討から,ヒトPROP1異常症はAmesマウスモデルとは異なり臨床的に幅広いスペクトラムをもつ疾患群であることが示唆された。
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