研究概要 |
幾つかの神経変性疾患では,神経細胞のみならずアストロサイトを含めたグリアに障害が生じている可能性がある。この病理・病態をヒトを含めて,動物種間でかつ経時的な変化も含めて検討し,新たな治療法の可能性を探ることは,今後神経疾患の病態・治療を研究して行く上で重要な課題である。この点をニーマンピック病C型に関して検討した。 ニーマンピック病C型のヒト,マウス,ネコの脳組織を用いて,動物種間でのグリア細胞との係り方の差について比較検討し,動物種による表現型の差を認めた。マウスでは小脳皮質の萎縮とプルキンエ細胞の脱落が著明であり,ヒトC型と類似していた。ネコではプルキンエ細胞への脂質の蓄積は認めるが,細胞の数的減少は少なくこの点で大きく異なっていた。このマウスの症状未出現期に,大脳皮質の神経細胞内とその周辺のマクロファージにユピキチン陽性構造物を検出し,更に白質にも陽性反応を示す構造物を認めた。またアストロサイト内にもユビキチン陽性物質を確認し,神経細胞保護の機能が早期から障害され,その増強と共に死に至る可能性が示唆された。前述の変化は加齢が進むにつれ,より強く広汎に生じていた。しかし,骨髄移植を行った8週齢の羅患マウスでは,細胞間のユビキチン陽性・変性蓄積物が殆ど消失し,同時にマクロファージが神経細胞に隣接する形で認められた。しかし,神経細胞内の蓄積は電顕的には改善されたが,光顕像での改善には乏しかった。移植後はアストロサイトが減少し,蓄積物も消失した。本病では骨髄移植による神経症状の改善は認めないものの,脳内でも異常蓄積物の処理が行われる点が確認された事から,進行の遅い神経変性疾患の中には骨髄移植が臨床的にも有効な例も期待される。
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