研究概要 |
メラノサイトにおけるメラニン合成の過程で細胞毒性が生じることは以前から指摘されていたが、従来は5,6-dihydroxyindole(DHI)がその毒性の主役であると考えられてきた。メラニンの合成経路はチロシンに始り、チロシナーゼがこれをドーパを経てドーパキノンに変換する。ドーパキノンは速やかに閉環してドーパクロムとなり、自動酸化によりDHIとなるか、ドーパクロムトートメラーゼ(Dct)の作用を受けて5,6-dihydroxyindole-2-carhoxylic acid(DHICA)になり、それぞれ重合してメラニンを形成する。DHICAの毒性はDHIよりも低いためDctはDHIの毒性からメラノサイトを守っているとされてきたが、Dctの基質となるドーパクロムの細胞毒性についてはこれまで報告がなかった。 ドーパクロムは化学的に不安定な物質のため、silver oxideにて合成後、速やかに短時間(30分)細胞に暴露しcolony formation assay(CFA)を用いて、ドーパ、DHI、DHICAと細胞毒性の程度を相対的に比較した。その結果、ドーパの毒性を1とするとドーパクロムは約160倍の毒性を示した。DHIは5、DHICAの毒性は1.3と低かった。次に、0.1-mMドーパは今回の条件下では毒性を示さないが、これにチロシナーゼを作用させたところ、0.5-mMのドーパに相当する毒性を示すようになった。これらの結果は、DHIよりもメラニンの合成経路ではひとつ上流にあたるドーパクロムのほうが毒性が遥かに強く、Dctはrescue enzymeとして機能している可能性を示唆している。現在、Dctのinhibitorが、melanogenic cellの増殖を抑制するか検討中である。
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