研究概要 |
メルケル細胞はヒト皮膚神経系を構成する重要な細胞のひとつである。この細胞は表皮基底に存在し、機械的刺激の受容にかかわる細胞であると多年にわたり信じられてきた。しかしながら、近年毛包膨大部に不整形のメルケル細胞が多数存在することが分かってきた。そこでメルケル細胞の神経原性角化異常へのかかわりを検討するため、ヒトの正常ならびに病的皮膚でメルケル細胞ならびに神経を、抗サイトケラチン20モノクローナル抗体ならびに抗PGP9.5ポリクローナル抗体を用い、免疫組織化学と電子顕微鏡を使って研究した。まず神経終末がメルケル細胞に付着するか否かを、免疫組織化学を用いヒトの種々の部位で検索した。結果として、表皮ではメルケル細胞のことごとくは卵円形で、三日月状の膨らんだ神経終末が付着している。一方毛包膨大部では、メルケル細胞は細胞質突起を突出して樹状細胞の形を呈する。一方神経終末の付着は殆ど認められない。これらのデータに基づき、メルケル細胞の多形態性の存在が本研究で明らかにされた。 表皮に存在するメルケル細胞の約95%は卵円形を呈するが、毛包膨大部のメルケル細胞の多くは樹状である。とくに顔面では約30%が、また頭部では約20%が樹状である。メルケル細胞に付着する神経については、表皮では半月状の経終末が付着するが、毛包膨大部では神経終末の付着はほとんど認められない。これらのデータに基づけば、膨大部の樹状メルケル細胞の機能は、表皮の卵円形メルケル細胞のそれとは異なることが示唆される。また毛包近傍や表皮下には球形の真皮メルケル細胞がしばしば認められた。メルケル細胞が樹状メルケル細胞(未熟あるいは未分化な)から発達し表皮に供給される可能性、そして真皮メルケル細胞はその途上にある細胞である可能性が推測された。さらに樹状メルケル細胞は感覚受容とは異なる機能を司ると示唆される。メルケル細胞は角化を促進するある種の内分泌物質を放出している可能性を考えるに至った。 基底細胞癌、毛包芽腫(trichoblastoma),毛包上皮腫,外毛根鞘嚢腫,外毛根鞘腫などの、毛包に関連した腫瘍組織で、メルケル細胞と神経とを検討した。毛包芽腫の腫瘍塊周縁部には多数の樹状メルケル細胞が認められたが、基底細胞癌ではメルケル細胞は観察されなかった。メルケル細胞の存在は、毛包角化を来たす腫瘍の確実性のある指標となることが考えられる。今後の研究が期待される。
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