研究概要 |
初年度は,2D ASTAR法に関して,撮像パラメータが画像に与える影響をシングルスライスで検討し,その最適化を図った.ASL法を臨床で広く応用するにはマルチスライスでの撮像が不可欠であるが,本研究においても1年半を経過した時点で3D ASTAR法を用いたマルチスライス撮像が可能となり,以後は同法に関して基礎的・臨床的に検討した.マルチスライス法では,ラベル用パルスによるMTCの影響がコントロールパルスによって完全には補正されない.静止粗織の信号抑制を工夫することで臨床応用可能な画像が得られるようになった.ASL法はarterial transit time (ATT)の影響を強く受け,TIの変化によって画像コントラストが大きく変化することが確認された.若年の正常ボランティアにおけるシングルスライスでの検討でも,血流境界領域のようにATTが他の部位よりも延長した部位の信号は低く,この部位にあわせたTIの設定が必要と考えられた(1000〜1200ms程度).マルチスライス法では頭側のスライスほどラベリングパルスとの間隔が広く,ATTの影響がより顕著となった.3Dで頭側のスライスまで十分な画質を確保するためにはTIを1400ms以上に設定することが好ましいと思われた.また,高齢者では若年者に比べて脳実質部の信号が弱く,血管内信号が残存しやすい傾向があった.血流速度が遅いためラベルされた血液が撮像範囲に十分到達していないためだと想定される。閉塞性動脈疾患症例では,ATTの延長に伴う局所脳血流の過小評価と血管内に残存するスピンによる過大評価の両者が問題となった.これらの影響は,頭側のスライスほど顕著な傾向にあった.ATTの影響を軽減するにはTIを延長する方法があるが,TIの延長はラベルされた血液の縦緩和に伴う信号低下および撮像時間の延長をもたらす.ATTに応じてTIなどの撮像条件を最適化する必要があるが,それぞれの症例におけるATTを予測することは容易ではない.また,縦緩和による信号低下や検査時間を考慮すると,現時点の手法ではTIの延長にも限界がある.進行したモヤモヤ病などでATTが極端に延長している場合には,この手法による脳血流評価は困難と考えられる.血管内信号を抑制目的で,データ収集前にラベリング位置に飽和パルスをかけることが可能であったが,血管内信号を選択的に抑制する手法ではなく,SNRの低下が問題であった.
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