研究概要 |
【目的】変異型p53癌細胞に効率のよい癌治療効果を適用することを目指し、変性蛋白質構造を正常な蛋白質構造に戻す働きのあるとされる分子シャペロン(グリセロール)の変異型p53癌細胞の放射線/抗癌剤感受性に対する増感作用および放射線/抗癌剤による変異型p53腫瘍の増殖抑制の増強作用を検討した。 【方法】p53欠損ヒト肺癌細胞H1299に変異部位の異なる変異型p53遺伝子(codon175,Arg→His; codon248,Arg→Trp; codon273,Arg→His)を導入した細胞(H1299/mp53)、p53の表現型が正常型の舌扁平上皮癌細胞SASに変異型p53遺伝子(codon243,Arg→Trp)を導入した細胞(SAS/Trp248)および変異型p53を保有する甲状腺未分化癌細胞8305c(codon273,Arg→Trp)とヒト口腔扁平上皮癌細胞株Ca9-22(codon248,Arg→Trp)を用いた。コロニー形成法で感受性を測定し、ヘキスト染色法及びDNAladder検出法でアポトーシスの解析を行った。SAS/neo細胞、SAS/Trp248細胞または8305c細胞をヌードマウス(Balb/cAJcl-nlの大腿皮下に移植し、CDDPを腹腔内投与あるいはX線を腫瘍部位に照射した。 【成果】グリセロールによりH1299/mp53、SAS/Trp248、8305cおよびCa9-22細胞のX線あるいはCDDP感受性が増感し、アポトーシスが増強された。シャペロン効果はp53遺伝子の変異部位に依存しないことや正常型p53蛋白質の機能亢進によるものではないことを確認した。さらに、ヌードマウス移植癌系では次の分子シャペロン効果を検討し、それぞれの知見を得た。 1.p53の遺伝子型のみが異なる細胞をヌードマウスに移植し、効率良くグリセロールを細胞へとりこませる方法を樹立する。→腫瘍体積の2倍量の1.2Mグリセロールを3日間連続局所投与および2日目のグリセロール局所投与直後にCDDPを腹腔内投与あるいはX線を腫瘍部位に照射することにより、効率良くグリセロールを細胞へとりこませることが出来た。 2.各種濃度のグリセロールを注入後、放射線・温熱処理を行い、腫瘍の増殖曲線を求める。→腫瘍の増殖曲線を求めた結果、X線あるいはCDDPによる腫瘍増殖抑制がグリセロール処理で増強されることが分かった。 3.分子シャペロン効果の見られたものについての癌細胞の死の様子について、病理的・分子生物学的に検索する。→変異型p53腫瘍ではグリセロールとX線あるいはCDDP併用処理によりアポトーシスが増強されることを免疫組織学的に明らかにした。【結論】変異型p53を保有する癌患者に対しては分子シャペロン治療を併用した放射線あるいは抗癌剤治療が有効であることが培養細胞系およびヌードマウス移植系で強く示唆された。
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