研究概要 |
中枢神経伝達機構における遺伝子多型と抗精神病薬に対する臨床反応との関連について、特に抗精神病薬の作用機序に深く関わるdopamine受容体の遺伝子型を中心に、それらの薬物治療における薬力学的な予測指標としての応用可能性を検討し、以下の研究成果を得た。 1)TaqI A dopamine D_2 receptor polymorphism TaqI A dopamine D_2 receptor polymorphismについては、dgpamine受容体密度の低下を示すと報告されているA1遺伝子保有者において統合失調症の陽性症状の改善が有意に良好であり、さらに本遺伝子多型がdopamine受容体遮断薬の全体の治療反応性を変化させることを報告した(Suzuki et al.,Pharmacogenetics,2000)。一方、抗精神病薬の副作用に関しては、A1遺伝子が神経遮断薬悪性症候群(Suzuki et al.,2001,Am J Psychiatry)や女性における高プロラクチン血症(Mihara et al. Psychopharmacology,2000;Mihara et al.,Am J Med Genet,2001)の発現に際して危険因子となることを指摘した。よって、A1遺伝子保有者は総じてdopamine D_2受容体遮断効果に対して高い感受性を有すると考えられ、TaqI A dopamine D_2 polymorphismが抗精神治療薬の治療反応の予測や副作用の回避のための予測指標として有用である可能性を示唆した。 2)-141C Ins/Del dopamine D_2 polymorphism Dopamine D_2受容体発現制御への直接的関与が指摘される-141C Ins/Del polymorphismについて検討し、dopamine D_2受容体密度の低下を示すと報告されているDel遺伝子非保有者において統合失調症の不安-抑うつ症状の改善が有意に良好であることを示し(Suzuki et al.,Pharmacogenetics,2001)、本遺伝子型が、抗精神病薬治療における抗不安作用や抗うつ効果に対する感受性を変化させる可能性を示唆した。 3)Combination of TaqI A and -141C Ins/Del dopamine D_2 polymorphisms TaqI Aおよび-141C Ins/Delの2つのdopamine D_2受容体遺伝子多型の組み合わせが、選択的dopamine受容体遮断薬の治療反応性予測に有用であるかを検討した。その結果、TaqI A dopamine D_2受容体遺伝子多型のA1遺伝子を保有せず、かつ、-141C Ins/Del dopamine D_2受容体遺伝子多型のDel遺伝子を保有する統合失調症患者においては、陽性症状および不安-抑うつ症状の改善が著しく低下し、dopamine受容体遮断薬に対して顕著な治療抵抗性を示すことを報告し、治療前の複数のdopamine D_2受容体遺伝子多型の同定が、抗精神病薬の種類の選択についての客観的な指針となることを示唆した(第12回日本臨床精神神経薬理学会発表,新潟,2002:Paul Janssen Award受賞)。
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