研究概要 |
服薬中の統合失調症の患者9名と健常対照者10名に対してfMRIを施行した。患者では,練習前におけるシークエンス達成回数が少なく,両側運動前野のBOLD反応が健常者に比べて低かった。また,練習による達成回数の増加率は健常者と同程度であったが,対側運動前野のBOLD反応は,健常者では練習後に減少するのに対して,患者では増加していた。我々の研究成果は,1)統合失調症の患者では運動機能が障害されており,運動前野の機能低下がこれに関与している,2)運動学習自体は大きく障害されていないが,脳機能という視点から見ると,学習の能率が悪いことを示唆している。さらに,研究対象を新たに募って同様の方法でfMRIの撮影条件のみを変えて行い,SPMを用いて処理した研究においても同様の知見が再現された。 統合失調症患者の神経心理学的検査(Conceptual Reasoning Task)を施行時における,健常者との賦活パターンの違いおよび服薬している薬物の違いが認知機能に与える影響について検討した。被験者は健常者28名と患者15名である。患者では課題の正答率が健常者に比べて低い傾向がみられた。また,賦活領域のパターンは両群において似ていたが,賦活領域は減少しており,特に左側の前頭前野における賦活領域の減少が顕著であった。さらに,頭頂葉と側頭葉後部においても減少していた。患者群を非定型抗精神病薬服薬群(10名)と定型抗精神病薬服薬群(5名)の二群に分けて検討したところ,前者では前頭前野と頭頂葉における賦活が見られたのに対して,後者においては検出感度を下げても賦活がみられなかった。さらに,非定型抗精神病薬服薬群をリスペリドン服薬群(5名)とオランザピン服薬群(5名)の二群に分けて検討したところ,前者では患者群全体と似た領域に賦活がみられたのに対して,後者では検出感度を下げても賦活がみられなかった。以上のことから,統合失調症における認知機能障害は脳機能の障害と関連して出現すること,そして,これが服薬している薬物の種類によって影響を受けることが証明された。薬物療法を行うに当たってはこのような知見を踏まえて合理的な薬剤選択を行う必要があることが示唆された。
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