研究概要 |
1.目的 ストレス脆弱性が精神分裂病の要因とされ、vulnerability-stress modelが提唱されているが、早期一成長期のストレスを客観的に把握することは困難である。胎生期一成長期のストレスを恒久的に刻印する人体組織として,臼歯エナメル質のストレス線(Willson線)が知られている(Gdoodman&Rose,1990)。私達はこのストレス線(Ameloblast Stress line, ASL)を指標として,分裂病のストレス脆弱性の形成年齢を検索した。 2.対象と方法 対象は自治医科大学関連精神病院に入院中の慢性,妄想型の分裂病14例(男性9例,女性5例,平均生齢41.4歳)である。正常対照群として、智歯周囲炎のために抜歯した16例(女性,平均30.7歳)を当てた。PTSDについては米国PTSD研究所(ホノルル)を受診した8例及び比較対群として38例である。ASLの検索は歯科疾患で抜歯した第3臼歯を用いた。第3臼歯は9-13歳までのストレス暴露をASLとして刻印し,ASLが刻印されているエナメル質の層構造からストレス負荷年齢を同定出来るので,9-13歳の間を半年毎に分けて検討した。ASLはそれぞれのエナメル質中のASLの線の長さと境界鮮明度から5段階に評価した(0:なし,1:微小,2:軽度,3:中程度,4:重度)。 3.結果と考察 ASLの発現は正常対照群が68%,分裂病群が100%であった。ASLの本数は分裂病群が3.6;±2.1本,正常対照gu群が1.3±1.5本,ASLの総合スコアーは分裂病群が8.9+5.5,対照群が1.6±1.4であり,ともに分裂病群の方が有意に高値であった(Mann-Whitney U test, P<0.001)。ASLスコアーを年齢区分でみると、分裂病群は11.5歳にピークがあり,10.5歳から12歳までの年齢区分で正常対照群よりも有意に高かった(P=0.01-0.0002)。PTSD症例は本数が5.7+4,対照群が2.6+1.6で優位にPTSD症例の方が多かった。これらの結果から、分裂病群は11.5歳をピークにして10.5歳から12歳まで有意に多くのストレスにさらされてたことが示唆された。PTSD症例も有意に多くのストレスに曝されていた。ASLは分裂病やPTSDが顕在化する前のストレス暴露を示す指標になり得ることが示された。
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