研究概要 |
ETV6遺伝子はETS familyに属する転写制御遺伝子である。この遺伝子の特徴は、極めて多種類の遺伝子(MDS1/EV11,BTL, ACS2,STL, JAK2,ABL, CDX2,TRKC, AML1,MN1,Pax5など)と融合遺伝子を形成し、急性・慢性、リンパ性・骨髄性、原発性・二次性を問わず、広範囲の血液腫瘍や固形腫瘍に関与することである。特にキロシンキナーゼ(PDGFRB, ABL, JAK2,NRKC)や転写因子(AML1)と融合遺伝子を形成することが多く、PDGFRB/ETV6,ABL/ETV6,JAK2/ETV6,NRKC/ETV6といったキロシンキナーゼ/ETV6融合遺伝子を形成している。ETV6遺伝子あるいはETV6融合遺伝子の機能解明することは、腫瘍化機序の解明につながる可能性がある。 私達は、既にt(1;12)(q25;p13)転座を持つHT93A細胞株より、ETV6/ARG融合遺伝子を単離している。このETV6/ARG融合蛋白質の機能を解析したところ、(1)B3/F3細胞にIL3非依存性増殖能を付与すること、(2)Rat-1細胞に軟寒天培養条件下で増殖能を付与することから、これまでに報告されているキロシンキナーゼ/ETV6蛋白質と同様に「造腫瘍性を有する」ことが証明された。また、これまでに報告されているシグナル伝達経路に関与するABL/ETV6蛋白関連分子(PI3K, SHC, ras-GAP, CRK-L)を調べたところ、ETV6/ARG蛋白においても、同様に活性化されていることが証明された。ARG遣伝子はABL遺伝子と極めて高い相同性を持ちながらも、これまでヒト腫瘍で見いだされたことはない。本論文はARG融合蛋白が造腫瘍性を持ち、しかも、ABL/ETV6蛋白と同様にシグナル伝達に関与していることを証明した最初の論文である。 ETV6/ARG融合遺伝子はこれまでに、3種類の白血病(M3,M4eo、T-ALL)で見いだされているが、M3おいては、IL3,G-CSF, GM-CSF, ATRA添加培養で好中球・好酸球・好塩基球へ、ALLにおいては、IL3,G-CSF, GM-CSF添加培養でmyeloid細胞へ分化することが報告されている。そこで、ETV6/ARG融合蛋白の分化誘導能の有無を調べるために、ETV6/ARG constructをK562,HL60に導入して、サイトカイン添加培養を行った。結果はいずれの細胞株においても、細胞形態に変化は見られなかった。現在、ETV6 ex.5が欠失したETV6Δ5/ARG constructを導入して、細胞の形態変化を見ているところである。
|