研究概要 |
ヒト腎疾患の進展過程におけるfibroblast specific protein 1(FSP1)陽性線維芽細胞の役割を明確にする目的で,各種腎糸球体疾患でのFSP1陽性線維芽細胞の局在を検討た.320例の各種腎糸球体疾患患者(IgA腎症142例,膜性腎症28例,巣状分節状糸球体硬化症36例,微小変化型ネフローゼ症候群31例,ループス腎炎41例,半月体形成性腎炎42例)の腎生検組織を用い,抗FSP1抗体による酵素抗体法を実施した.FSP1陽性線維芽細胞は,間質線維化領域に主に認められた.また,高度の線維化領域内にある尿細管上皮細胞にもFSP1陽性細胞が認められた.FSP1陽性細胞数は,point counting法で計測した間質繊維化面積と正相関を示した(r=0.84,P<0.0001).また,FSP1陽性細胞数は血清クレアチニンとは正相関を示し(r=0.67,P<0.0001),クレアチニンクリアランスとは負相関を示した(r=-0.71,P<0.0001).これらの成績から,FSP1陽性線維芽細胞が間質線維化の進展に関与することが明らかとなった. FSP1は,糸球体内では糸球体上皮細胞の一部に局在していた.半月体形成性腎炎では,半月体内にもFSP1陽性細胞が認められた.次に,糸球体上皮細胞でのFSP1の発現が分節状硬化病変の形成に関与する可能性を検討するために,糸球体上皮細胞でのFSP1の発現レベルを微小変化型ネフローゼ症候群患者(MCNS)と巣状分節状糸球体硬化症患者(FSGS)で比較した。各糸球体での糸球体上皮細胞内FSP1発現レベルを4段階(0〜3点)に分類し、全糸球体での発現レベルを評価して平均値を算出した。FSGSでの発現レベルは、MCNSに比し有意に高かった(1.51±0.47VSO.60±0.50,p<0.001)。また、FSP1発現レベルは各種臨床パラメータ,(1日尿蛋白、血清クレアチニン、血圧など)と相関を示さなかった。糸球体上皮細胞でのFSP1の発現は、分節状硬化病変の形成に関与する可能性がある。
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