研究概要 |
母体が環境からダイオキシン類化学物質に暴露された際に,児の肝代謝・解毒能及ぼす影響を解明するため,低レベルのダイオキシン作用をもつ1,2,3,4-TCDDを出産後の母体ラットに単回投与し,授乳を介した新生仔ラットの暴露モデルを作成した.competitive RT-PCR法により,ダイオキシン暴露のマーカーとしてCYP1A1 mRNAのCYP1A1の発現変化を経時的に定量した. 授乳を介して1,2,3,4-TCDDに暴露された新生仔ラット肝のCYP1A1mRNAは日齢6でピークに達し,その増加は日齢10まで継続した.新生仔は授乳によりダイオキシン類の慢性的な暴露をうけ,その影響は母体より長期にわたることが示唆された.CYPアイソエンザイムのmRNAについて検討した結果,新生仔のCYP2B1/2,CYP2E1,CYP3A1のmRNAが少なくとも日齢10まで高いレベルまで増加していることが明らかとなった.これらのアイソエンザイムの誘導にはCYP1A1の様にAh receptorを介さないことから異なるメカニズムの関与が考えられ,肝の脂肪変性を示した組織所見は,毒性のメカニズムとして重要な酸化ストレス反応の関与が示唆された.そこで抗酸化酵素(AOE)のmRNAを同様に定量した.新生仔肝ではph-GPx,cell-GPx,EC-SOD,CuZn-SOD,CATのmRNAが日齢2に低下し,日齢6は回復,日齢10には増加の傾向を認めた.この結果は,授乳を介してダイオキシン類に暴露された新生仔は短期間に酸化ストレスをうけ,それを防御するAOEの反応が引き起こされていると考えられた. 更にcompetitive RT-PCR法を応用して,ヒト臍帯血単核球CYPIB1,CYP1A1 mRNAレベルと胎児の有害物質のうちのひとつである喫煙の暴露の関係について検討した.ヒト臍帯血単核球のCYP1B1 mRNAは個人差が大きく,胎児個人の外来有害物質への暴露のバイオマーカーとして適切とはいえなかった.一方,CYP1A1 mRNAの発現レベルは著しく低く,今回の検討では喫煙との関係は有意ではなかったが,CYP1A1 mRNAが増加している場合には何らかの化学物質への暴露の影響をうけている可能性があり,今後より多数のサンプルで,多様な環境因子,周産期因子と合わせ検討する必要と考えられた.
|