研究概要 |
羊水中の生物活性物質(カテコールアミン、β-エンドルフィンなど)が胎児切迫仮死において上昇することが報告されており、その診断マーカーとしての意義が提唱されている。我々は羊膜上皮細胞が種々の生物活性物質(神経栄養因子、神経伝達物質、アクチビン、ノギン、アルブミン、エリスロポイエチン)を合成、分泌する能力を保持していることをin vitro実験で証明してきた。この羊膜上皮細胞のin vivo機能について、胎児切迫仮死動物モデルを用いて検討した。妊娠17齢ラットの子宮血管の30分間の結紮により、胎児仮死を作出した。24時間および48時間後に羊水を採取して、カテコールアミン、アセチルコリン、アクチビン、神経栄養因子を測定した。モデルラットの羊水中のNT-3(神経栄養因子)は、3.5±2.0pg/m(対象1.1±1.1pg/ml)に有為に上昇していた。そしてactivin-Aおよびカテコールアミン(DA, DOPACNE)も上昇していた。またインフォームドコンセント施行後に得られた胎盤より羊膜上皮細胞を分離、培養し、in vitro低酸素実験を行った。培養液中の神経栄養因子の測定を行ったところ、NT-3濃度が0.18±0.10pg/ml(対象O.56±0.19pg/ml)と有為に上昇した。NGF, BDNFは上昇傾向にあるが有為さはなかった。この実験結果より胎児切迫仮死モデルにおいて、羊水中の神経栄養因子、特にNT-3有為に上昇することが判明し,培養実験でも証明された。既報のごとくカテコールアミンおよびactivin-Aの羊水濃度が胎児切迫仮死で上昇することが今回の実験モデルラットでも証明された。本実験により羊水中の種々の生物活性物質は羊膜上皮細胞から合成、分泌され、胎児仮死において羊水中の濃度が上昇することが判明した。このことより、ヒト胎児切迫仮死においても羊水中のこれら生物活性物質の濃度が胎児仮死の診断マーカーとして応用できる可能性を示唆された。
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