研究概要 |
【背景及び目的】p38 mitogen-activated protein kinase(p38)は,従来TNF-αやIL-1などのサイトカインにより活性が亢進しアポトーシスを惹起するが,ホルモンや成長因子などでは活性亢進が起こらないと報告されてきた.それに対して,我々はp38が血管壁細胞において高血糖や糖尿病により濃度依存性にprotein kinase C(PKC)を介して活性化されアラキドン酸遊離を制御することや,培養血管平滑筋細胞(VSMC)においてインスリンによっても活性化され細胞増殖に関与することを明らかにしてきた.そこで,本研究では動脈硬化症の発症や進展に重要な影響を及ぼすことが知られているplatelet-derived growth factor-BB(BB)に対するp38活性化の有無とそのシグナル伝達機構及び生物活性(biological effect)について,正常と糖尿病由来のラットVSMCを使って検討した. 【方法】正常(N)とSTZ糖尿病(DM)の雄Sprague-Dawleyラット大動脈よりexplant法にてそれぞれVSMCを採取した.そして,starvation後にBBで刺激し,1)p38活性の有無,2)上流と下流のシグナル伝達機構の変化や他のMAP kinase(MAPK)カスケードとのシグナルのクロストーク,3)p38により制御される生物活性について検討を行なった. 【結果】1)N細胞においてp38活性はBB刺激により濃度依存性に亢進し,DM細胞ではさらに40%亢進した.また,この活性は,p38の特異的阻害剤SB203580で濃度依存性に抑制された.2)p38は,PKCδ及びMAPK kinase(MKK)3/6を介し,ERKなどとは独立したカスケードで活性化されることが明らかになった.また,その制御にはsmall G蛋白のなかのRho Aが関与していた.3)p38は,細胞増殖や遊走能,さらにアラキドン酸遊離やCOX-2の発現に影響を及ぼすことが明らかにされた.さらに,DM細胞においてさらにこれらの亢進が認められた.しかし,VSMCにおいては,BBにより活性化されたp38はアポトーシスを惹起しなかった. 【結論】糖尿病による慢性的な炎症過程を伴う動脈硬化病変の形成に対してp38が重要な影響を及ぼしていることが示唆された.
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