研究概要 |
高比重リポ蛋白(HDL)は抗動脈硬化作用を持つリポ蛋白で、末梢組織の過剰なコレステロールを引き抜き肝へ運ぶ。そのコレステロールは、胆汁として腸管へ分泌される。疫学調査によって、HDLコレステロール値が低下すると、冠動脈疾患(CAD)のような動脈硬化性疾患の頻度が高くなることが示されている。しかし、非常にHDLコレステロール値が高い場合、これがCADの予防に好ましい状態であるかどうかは意見が分かれている。本研究では、高HDL血症の原因を調べ、さらに高HDL血症と動脈硬化の関連性を検討した。我々は、以下のような結果を得た。(1)2,229名の健康人を対象に、HDLコレステロールが100mg/dL以上の高HDL血症の頻度を調べた。高HDL血症は、男性1,033名中7名(0.7%)、女性1,196名中14名(1.2%)に認められた。(2)空腹時の血清コレステリルエステル転送蛋白(CETP)量を、高HDL血症患者(83名)と健常人で調べた。男性では、高HDL血症(26名)のCETP量は、正HDL血症のそれより有意に低かった(1.6±0.6vs.2.2±0.5μg/mL, p<0.001)。一方、女性では、高HDL血症(57名)と正HDL血症のCETP量は、ほとんど同じであった(2.5±0.8vs.2.4±0.5μg/mL, p<0.001)。(3)非変性二次元電気泳動による検討では、大型と中型のサイズのα-HDL(HDL2bとHDL2a)は、高HDL血症で対照群より有意に増加していた。また、高HDL血症群では、細胞からコレステロールを最初に引き抜く分画であるpreβ1-HDL濃度も、対照群より有意に増加していた。(4)83名の高HDL血症のうち42名(男性12名、女性30名)に、トレッドミル運動負荷心電図を行った。2名の患者で、運動時に有意なST部分の低下を認めたが、いずれも偽陽性であった。これらの結果より、CETPの低下は、我が国の高HDL患者では女性より男性でより重要な因子であった。高HDL血症がCADを発症しやすいかについては、将来明らかにされる必要がある。
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