研究概要 |
胚性幹細胞(ES細胞)は初期胚由来の多分化能をもつ細胞で,in vitroで造血細胞,神経細胞,心筋細胞などに分化誘導が可能なことが示されている.今回,膵β細胞への分化誘導法を確立することを目指して研究を開始した.種々の細胞系列へと分化するES細胞から膵β細胞へ効率的に分化を誘導し,純化するためには分化したβ細胞を選択するためのマーカーが必要となる.そこで,膵の分化初期に転写が開始され,発生の進行とともにβ細胞で特異的に発現されるインスリン遺伝子のプロモーターの下流にzeocin耐性遺伝子およびEGFP遺伝子がpolycystronicに発現されるレポーター遺伝子を作成し,このレポーター遺伝子をゲノム内に安定に組み込んだES細胞を作成した.この細胞では,β細胞へと分化を開始するとEGFPを発現し,EGFPの発する蛍光により蛍光顕微鏡下で同定可能となる.同時に,セルソーターや抗生剤zeocinでの選択により細胞を純化することも可能である.この細胞からEmbryoid bodyを産生し,無血清培地を用いて分化誘導することにより,インスリン産生細胞が生じることが確認できた.さらに,膵β細胞の分化に重要な役割を演じる転写因子,IPFを強制的に発現させたES細胞で同様の実験を行い,より高率にインスリン分泌細胞へと分化を誘導することに成功した.依然,インスリンの産生量はnativeなβ細胞に比較して少量で,ブドウ糖に対する分泌応答も十分でないが,さらに分化条件に改良を加えて検討を続けている.また,EGFPの蛍光による細胞純化の試みを行っている.
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