研究概要 |
【目的】脂質代謝異常は大血管障害だけではなく、腎障害とも関連する。アポE2遺伝型は3型高脂血症、高レムナント血症、高トリグリセライド(TG)血症と関連し、一方、アポE4遺伝型は高LDL血症、動脈硬化症やアルツハイマー病と関連する。われわれは以前アポE2遺伝子が糖尿病性腎症と関連することを初めて報告した(Atherosderosis 107:203-211,1994,Clin Genet 48:288-292,1995)。1998年以降、英国、ドイツ、韓国糖尿病患者においてもアポE2遺伝子が糖尿病性腎症の危険因子であることが報告され、われわれの見解が支持されてきた。今回、アポE遺伝型と糖尿病性腎症との関連をアポE4を含めて検討した。さらに機序を明らかにする目的で、アポE2含有TG-richリポ蛋白のヒトメサンギウム細胞に対する影響を検討した。【方法】糖尿病歴10年以上の糖尿病患者158名を対象とした。アポE3/3遺伝型102名、アポE遺伝型22名、アポE4遺伝型34名に分類した。さらに糖尿病患者を尿微量アルブミンによりnormoal buminuria(腎症(-))群、microalbuminuria群、overt proteinuria群の3群に病期分類した。患者血漿から超遠心法により分離したTG-richリポ蛋白(d<1.019)を培養ヒトメサンギウム細胞に添加し、その取り込み能をOramの方法により検討した。また、PKC活性を測定した。【結果】腎症(-)群、microalbuminuria群、overt proteinuria群の頻度は、アポE3/3遺伝型患者ではそれぞれ34.3,31.4,34.3%であり、アポE2遺伝型患者ではそれぞれ4.5,36.4,59.1^*%であり、アポE4遺伝型患者ではそれぞれ67.6^<**>23.6,8.8%であった(^*P<0.05,^<**>P<0.001vsアポE3/3)。各アポE群間に高血圧の頻度や血糖コントロールに差はなかったが、アポE2群の血中TG, RLP-C値はアポE3/3,アポE4群に比べて有意に高値であった。アポE4群のRLP-CはアポE3/3に比べて有意に低値であった。アポE2TG-richリポ蛋白のヒトメサンウム細胞への取り込み能はアポE3/3TG-richリポ蛋白に比べて有意に亢進していた。アポE2TG-richリポ蛋白はヒトメサンギウム細胞のPKC活性を有意に亢進させた。【結論】アポE2およびE4遺伝子はそれぞれ腎症の促進、抑制に関与する因子である。アポE2レムナントリポ蛋白はメサンギウム細胞へ取り込まれやすく、PKC活性を亢進させることにより腎糸球体硬化、腎障害を惹起する可能性が明らかになった。レムナントリポ蛋白が糖尿病性腎症のキー物質である可能性が強く示唆された。 (Eto M, Saito M, et al.Am J Kidncy Dis 2002(in press))
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