研究概要 |
最初に雄性Wister rat肺の60分温阻血のモデルを用い,実験を炎症性サイトカイン阻害剤であるFR167653(0.1mg/kg/hr)を阻血30分前より阻血終了時まで経頚静脈的に投与したFR群,対照群および開胸群の3群に分けて行った.左肺を60分間温阻血後120分再灌流したFR群と対照群で,60分間温阻血後と再灌流120分後の動脈血液ガス分析,血清TNF-αとIL-1値および肺の病理組織像を検討した.その結果60分間の肺温阻血では血清TNF-αとIL-1値および肺の病理組織像は両群に差は見られなかったが,リン酸化p38MAPKの発現はFR群が対照群に比べが有意に抑制された.再灌流120分後,FR群は対照群と比べPaO2,SaO2が有意に良好で,血清TNF-αとIL-1値が有意に低値であった.肺の組織像でも対照群に比べFR群の組織学的変化は軽度であった.以上の結果から,38pMAPKの活性化はストレスで誘導されTNFやIL-1の産生に関与する.FR167653は38pMAPKの活性化を抑制することでサイトカイン産生を抑制して温阻血再灌流障害を軽減すると考えられた. 次いで臨床応用を考え大動物である雑種成犬を用い,実験を2群に分けて行った。FR群(n=6)ではFR167653を60mg/Lの濃度で添加したEuro-Collins液でドナー左肺を灌流後に摘出し、4℃の同液に12時間単純浸漬保存後、乳酸リンゲル液でEuro-Collins液をリンスし、レシピエントに同所性に移植した。再灌流後に右肺動脈および右主気管支を結紮した。対照群(n=6)ではFR167653を添加せず同様の同所性移植を行った。PaO_2,A-aDO, L-PVR, COを測定した。肺組織を病理組織検査に供し、多形核好中球(PMN)浸潤を計測、湿乾重量比(WDR)を測定した。冷保存中および移植後30分の肺組織中リン酸化p38 MAPKをWestern blottingで解析した。その結果PaO_2, A-aDO_2, L-PVR, COおよびWDRは対照群と比較しFR群で有意(p<0.05)に良好であった。病理組織学的にはFR群が対照群に比べ浮腫、障害が軽度であった。PMN浸潤は対照群と比較しFR群で有意(p<0.05)に低値であった。肺組織中リン酸化p38 MAPKは冷保存中には両群共に活性化しなかったが、移植後30分で対照群で著明に活性化した。一方、FR群ではリン酸化p38 MAPKの活性化は有意(p<0.05)に抑制された。以上の結果から,p38MAPKの活性化は肺移植において再灌流後に急激に惹起され、肺障害に関与する。FR167653は38pMAPKの活性化を抑制することでサイトカイン産生を抑制し、冷阻血再灌流障害が軽減されると考えられる. 以上から,38pMAPKの活性化阻害を標的とした肺の虚血再灌流障害の治療は有効と考えられる.
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